航空無線

飛行機は着陸やり直しレーダー管制官と再会

羽田空港RJTT

航空無線解説は3日目を迎えました。

「今日のシーンが一番盛り上がります。」

着陸やり直しの状況でこんな発言をすると航空業界から不信を買いそうですが、遠く離れたニューヨークの国際空港で起きたニュースにもならないような話ですので、今回のゴーアラウンドの件は野次馬の一人に成り代わって赤裸々に説明します。

ニューヨークJFケネディー空港近くの公園で、航空管制官とパイロットの無線を聞きながらお気に入りの一眼レフカメラを握りしめ、飛行機を待ち続ける少年に話しかけられました。

「今日もう、全然良い写真撮れない。せっかくさっきデルタ航空のエアバス330型機が進入し始めたところだったのに、何かパイロットが最初の通信設定から風ばっか気にしちゃって、これダメかなーって思ってたら案の定ゴーアラウンドされちゃいました。すでに風向き310度くらいの強風にばっちり変わってるし、滑走路変更に合わせて撮影ポイント変えた方が身のためですよ。」

助言と解説ありがとう、航空無線の説明はそこから始まります。

趣味で飛行機の写真を撮る方の多くは、これくらいの高い知識水準で航空管制の会話をしています。航空管制官として仕事でやっているワケではないのに、航空業界のルールを自分で学び航空無線くらい平気で聞いて理解できたりします。航空好きの知識欲は空より高いです。

彼が言ってる意味が分からない方は昨日の記事を参考にしてください。

航空管制官; 310 at 15 gust 30.
「310度から15ノットの風、最大風速は30ノット。」

パイロット; We’re gonna go around, sir.
「サー(敬称)、当機は着陸やり直しします。」

航空管制官; Delta 6… DAL165, you can… fly runway heading climb and maintain 2000(feet).
「デルタ航空165便、滑走路方向と同じ針路で飛行、高度を上昇し2000フィートを維持。」

パイロット; Runway heading 2000, DAL165.
「滑走路同針路、高度2000フィート。」

航空管制官; DAL165, continue on the present heading, contact 135.9.
「デルタ航空165便は現在の磁針路で飛行を続け、周波数135.9で(レーダー管制官と)交信。」

ゴーアラウンドって分かっていても気持ちが焦るんですよ。このニューヨークの管制官もパイロットから着陸をやり直します!って宣言されて、その返答の冒頭では言い間違えをしています。

ネイティブだってこうですよ。努力して英語を習得した日本人が緊張状態でも冷静にスラスラ喋ることがどれだけ大変なことか。瞬間的なストレス?みたいなものが頭に熱を帯びさせて、脳がオーバーフローしかけます。航空管制官は横風が強い日であれば、飛行機がゴーアラウンドすることなんて百も承知で仕事をしています。なのに、分かっているのに、本番になるとどうにも上手くいかないんです。

航空管制官はリラックスして心の準備を整えるのが日常の仕事。
ときには先のこと考えるのはやめて飛行機を待ち受ける気持ちも必要です。

ゴーアラウンドをした飛行機というのはもう一度滑走路に着陸を試みるために、一旦空港から離れてレーダー管制官の誘導に従います。レーダー空域にすでに他の到着機がいるのであれば、ゴーアラウンドをした飛行機は上空で少々待ったあとの再進入という運びになります。

atc-rador

Fly runway headingは滑走路の方向に沿って飛行させるとき、Climb and maintainは飛行機を上昇させるときにそれぞれ使う定型用語です。

通常、飛行機の高度を指定して上昇の指示をするのは管制塔の管制官ではなく、レーダー画面を見て指示する管制官です。航空無線では風速をノット、高度をフィートで表します。何も単位を付けずにclimb and maintain 2000.と言う場合、上昇して2000フィートを維持して飛行という意味になります。

最後のcontact 135.9の部分は欠けている単語があります。
コンタクト(次の管制官への通信移管)させるときは原則、

飛行機のコールサイン, コンタクト, 次の管制施設名, 担当席の名前, 周波数

の順番でパイロットに指示をします。同じ空港でグランドからタワーにコンタクトさせる場合は管制施設名が同じなので省略が可能です。羽田空港を例にとると、羽田の管制施設名はTokyoですが羽田空港の管制塔で指示をしているグランドの管制官がタワーの管制官にコンタクトさせるときは、

航空管制官; …contact (Tokyo) tower, 118.1.

と、Tokyoを省略するのは可能となっていますが担当席の名前は省略できません。パイロットが次に周波数を設定して管制官に呼びかける名前は、コンタクトの前に伝えておきましょうっていうのが原則です。それにのっとって最後のフレーズを訂正すると、

航空管制官; DAL165, continue on the present heading, contact New York Departure 135.9.
「…ニューヨーク出発管制席と周波数135.9で交信。」

となります。

理解してもらったところで改めて、ニューヨークの航空管制官がどういう心境なのか通信を聞いて感じてほしいと思います。

あ、無理なら聞いてくれなくて別にいいです。
明日は最後にまとめの解説をしますのでそのときに聞いてください。

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