航空英語

こんなとき、管制官とパイロットは何を話してるの?滑走路点検編

航空管制官のマニュアルである管制方式基準については、すでに当ブログの航空管制官カテゴリーでイチから解説しておりますが、管制官は定型文だけで仕事ができるわけではありません。日々の空港の運用、航空機の飛行には、管制方式基準だけではカバーしきれない様々なシチュエーションがあります。管制官はそれぞれの場面に応じて柔軟にパイロットに指示を出さなければなりませんが、そのフレーズはお決まりの定型文が定められていません。

現場の管制官は、世界中のパイロットに誤解なく通じて、端的でわかりやすい英語表現をしなければならないのですが、具体的にどういうところに気をつけて英文を組み立てているのか、その昔、自分が喋っていたフレーズを基に解説します。

滑走路点検をするとき

滑走路点検というのは、滑走路上に航空機の部品や鳥の死骸等の異物が落ちていないか、また路面に大きな亀裂がないかなど、離着陸の安全性に悪影響が出る事象がないことを確かめるため、普通の自動車を走らせて車の中から目で見て確認する作業をいいます。今年の夏は、羽田空港で日中の滑走路点検で路面の舗装が凹んでいる箇所が見つかって、滑走路を閉鎖した事例が何度かあったというニュースが流れましたが、そういったことが見つかるのはこの滑走路点検のときです。

国際的な基準で定められており、最低でも一日に2回の滑走路点検を各空港で実施しています。一回目は空港が運用を開始する前の早朝に、2回目は日中のピークが去ったあとの夕方前に行われるのが通例です。定時点検は、特に何事も起きていないが義務的に行う点検という意味合いで行われますが、それとは別に臨時の滑走路点検というものもあります。臨時の滑走路点検で良くあるのは、出発した航空機がバードストライクが起きたと報告があったときです。離陸したパイロットが鳥に当たったとなれば、滑走路上にその死骸が落ちたままになっているかもしれませんので、報告があった時点で速やかに滑走路閉鎖を宣言して、滑走路点検を行います。

定時だろうと臨時だろうと、滑走路点検の車両(場面管理車両)が滑走路上を走行しているときには航空機の離着陸はできませんので、皆さんが乗る飛行機が離陸する直前に滑走路点検が始まると数分間、滑走路手前で待つことになります。そのとき、管制官はパイロットに対して次のようなフレーズで状況説明を行います。

パイロット:We are ready for departure.「離陸の準備は整っています」

管制官:Scheduled ( Usual ) RWY inspection will be before your departure. If nothing wrong (found), it takes about 5 mins.「定時の滑走路点検があなたの出発前に行われます。特に問題がなければ、5分で終了するでしょう」

もしくは、

Due to daily Runway inspection, Your departure will be delayed in 5 mins.「一日毎の滑走路点検のため、あなたの出発は5分遅延するでしょう」

このようにパイロットに伝えておくことで、パイロットは機内の旅客に情報を提供できますし、間違って滑走路に入ることを防止できます。ここでミソなのは、臨時の滑走路点検ではない、ということを伝えることです。なぜかというと、臨時の滑走路点検は明らかに何か問題が発生して行われるものなので、例えばパンクした飛行機がいたために滑走路点検を行うなら、タイヤのゴムが散乱している可能性が高いです。すると、滑走路点検してやはりそうだと分かれば、今度はゴムを取り除くための別の特殊車両を走らせることになり、それだと5分、10分で終わるような作業ではなくなるからです。

パイロットに、これはいつもやってる念の為の滑走路点検だよ、と伝えることでパイロットは「そうか、それなら滑走路点検が終わったあとにすぐに離陸できるよう準備をしておこう」と思わせることができます。

滑走路点検が終わったあとは、特に何も問題がないと分かれば次のように宣言します。

管制官: Runway inspection has completed/finished, RWY is clear/normal.「滑走路点検が完了/終了しました。滑走路は正常です。」

定時の滑走路点検中は滑走路を使えないので、発着数が減って無駄では?と思うかもしれませんが、実際に定時点検中に異常が見つかることも時々あります。事故を予防する観点では欠かせないもの、という理解のもと全国の空港で行われております。

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4 Comments

  • Reply
    とも
    2018年12月10日 at 7:56 AM

    今回もタメになる話でした!
    滑走路の定期点検なんてあるんですね。
    以前、NRTで働いてた時に滑走路の点検なんて話は聞いたことあったなと思い出しました。

    実は、定型分以外の英語話せるのかなというのがすごく不安です。
    そういう実践的な英語力は、実務の中で身につくものなんでしょうか?
    ドラマの中では、緊急時なので日本語で申します。って言うのがありましたが、そういうこともあるのでしょうか?

    • Reply
      てっちりん
      2018年12月10日 at 5:56 PM

      管制官になる前から身につけられるかと言えばそれはあり得ませんが、かといって管制官やってれば勝手に話せるようになるわけではありません。ある程度、定型文を覚えるのと同じくらいのレベルで反復練習は必要です。さらに、訓練と、訓練を終えてからもずっと続く実務の中でトライアンドエラーを繰り返して、スムーズに言えなかった指示、明確に一発で相手に伝わらなかった指示があれば、次に同様のシーンになったときにはスラスラと分かりやすく伝えられるよう対策をするということを繰り返します。
      日本語で指示するのは、基本的にはやりたくないものです。日本語は単純に長いし曖昧な表現も多いし、喋ってるパイロットが日本人でも隣の席のパイロットは外国人かもしれないし、ましてや同じ周波数を聞いてるその他多くのパイロットにも外国人が含まれてるかもしれません。中国の一部の空港では基本的に中国人同士は中国語使ってて、管制官が喋ってる相手がパイロットかどうかすら分からなくて、日本人のパイロットは前後の飛行機が何の指示を受けてるのかも理解できなくて困るって聞きました。
      それでも母国語を使うことがあるとしたら、緊急でただでさえ大変なときにパイロットに交信ごときで脳みそを使わせたくないときです。緊急時は管制官との無線なんて二の次で、飛行機を安全に飛ばすためにトラブルシュートしたり、キャビンにいるCAや航空会社の地上スタッフに確実に状況を伝えることの方がよっぽど大事なんです。
      パイロットに余計な負荷をかけないためか、より確実に意思疎通を取るために英語よりも日本語を使ったほうが良いと判断すれば、日本語を使います。

  • Reply
    とも
    2018年12月10日 at 7:08 PM

    コメント、ありがとうございます!
    そうなんですね!勉強になります。

    それと同時に、自分で務まるのか
    より不安になります、、、

    • Reply
      てっちりん
      2018年12月11日 at 5:48 PM

      何事もやってみなきゃわかりません。やってみて自分にはどうしようもないと分かったなら、その時また新しい道を探せばいいだけのことです。

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