航空管制官

管制圏を制する目視間隔とは

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管制官には業務優先順位第1位で守らなければならない管制間隔というものがあります。管制間隔はたくさん種類がありますが、特に日常の業務で意識する管制間隔の種類と大体の説明は以下。

  • 垂直間隔
    航空機の高度差に対する間隔で、多くの場合は1000フィート(約300m)
  • 縦間隔
    車の運転で例えるなら車間距離にあたる。先行の飛行機と同経路の後続機の間に適用
  • 横間隔
    航空機間の水平距離に適用
  • レーダー間隔
    縦間隔も横間隔も必要ない。レーダーで捕捉出来るならレーダー間隔がミニマム(最小の間隔)
  • 目視間隔(本日の目玉!)

上記のうちどれでもいいので、一つ間隔があれば航空機は安全というルールです。垂直距離で1000ft(=feet)あるならレーダー画面上でぴったり飛行機と飛行機が重なっても、垂直間隔が確保されているので問題ありません。同高度を飛行している航空機同士は、レーダー間隔(レーダーの種類、レーダーからの距離によるが、5.4kmまたは9km)さえ守っておけば航空管制のルールには違反していないことになります。

とはいえ、レーダーが1個しかない空港でメンテナンス中だったり、レーダーが届かない(レーダー覆域外)ほど遠い場所では、縦間隔と横間隔を使わざるを得ません。また、レーダーの直上に航空機が入ったときや着陸直前で高度が低くなったときには、レーダー画面にターゲットが映らなくなるので、空港付近についてはタワーの管制官が目視で安全を担保している、というのが目視間隔です。原則、管制塔の管制官が目視間隔を適用できるのは、管制塔から約半径9km、高さ900mの円柱内(=管制圏)で、目視により航空機を視認できるときになります。

 

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レーダーがタワーの管制官に取らせる目視間隔

航空保安大学校で詰め込まれる航空管制の知識は数あれど、目視間隔ほど理解が困難な文面もありません。管制塔の管制官を経験してヒヤりハッと!?を繰り返さないと、いまいちピンとこないのが本音です。レーダー間隔を適用できない旅客機の離着陸前後、ゴーアラウンド(着陸復行)した航空機、特別有視界飛行方式(Special VFR)の小型機やヘリコプターの航空管制に必須の目視間隔とは。

※特別有視界飛行方式(Special VFR)とは、小型機やヘリコプターが視界不良でも空港に離着陸ができる航空法の特例(ただし、から始まる文面なのでただし書きと言う)のことです。詳しい説明は省いて、貴重なSVFR着陸動画を貼っておきます。

まずは、目視間隔の定義から。

目視間隔(Visual separation)
航空機と航空機の接触又は衝突を防止し、かつ、航空交通の秩序ある流れを維持するため、管制官が関係航空機を視認することにより、又は航空機が他の航空機を視認することにより確保すべき最小の航空機間の空間をいう。

引用: 第5管制業務処理規定

記事の最初に書いた管制間隔のリストの中で、具体的に距離や時間の間隔が示されていないのは目視間隔だけです。これは、人間が本来持っている感覚を文書化したに過ぎません。

定義を駅構内の歩行者に変えてみると尚更わかると思います。

目視間隔(Visual separation)
歩行者と歩行者の接触又は衝突を防止し、かつ、駅構内の秩序ある流れを維持するため、駅員さんが関係歩行者を視認することにより、又は歩行者が他の歩行者を視認することにより確保すべき最小の歩行者間の空間をいう。

管制官も駅員さんも担保するには荷が重い間隔です。管制塔から目で飛行機を見つけるか、パイロットに他の飛行機が見えてることを交信に残せば、規定における間隔があったという証拠にはなります。かといって、飛行機を見つけるだけが目視間隔の設定ではなく、その後の安全も担保することが含まれています。

到着機であれば滑走路に着陸するまで、出発機であれば管制塔(空港)から9km円内の管制圏から出ていくまで、管制塔の管制官が安全を見届けるのが目視間隔です。ただし、飛行に影響しそうな関連機がいなければ忘れていい間隔です。

最後に、目視間隔の適用について黒本の規定を載せておきます。

(a) 目視間隔は、原則として管制圏内において適用するものとする。

(中略)

(b) 飛行場管制所が関連機を視認し、必要に応じ航空機に対して目視間隔を設定するための指示を発出することができる場合。

ア 到着機と出発機間

★〔航空機無線呼出符号〕を視認次第、貴所の判断で出発させて下さい。 RELEASE SUBJECT YOUR DISCRETION WHEN〔aircraft identification〕IN SIGHT.

イ 到着機相互間 この場合は、当該飛行場管制所から関係機を視認し、かつ、目視間隔が設定できる旨の通報を得なければならない。

(c) 航空機が関連機を視認しており、管制官の指示に従って自ら関連機との間隔を維持して飛行できる場合。ただし、両機の飛行経路が交差する場合又は一方の航空機が他方の航空機にとって予期し得ない行動を起こすおそれがある場合は、関連機に対して交通情報を提供し、目視間隔が適用されている旨を通報しなければならない。

★〔関連機の位置〕〔関連機の型式〕当該機はあなたを視認しています。 TRAFFIC,〔position〕〔type of aircraft〕. HE HAS YOU IN SIGHT.

引用: 第5管制業務処理規定

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