航空管制官が通信をする相手は飛行機を操縦するパイロットだけに限りません。航空管制官が担当するエリアというのは聖域であり、許可がない者(物)は飛行機だけに限らず勝手に入ることはできません。
飛行機以外で管制官の指示を受けて動く乗り物の代表としては、トーイングトラクターが挙げられます。他にも滑走路の定時点検のため飛行機がいない時間を見計らって走行しながらチェックする車両や、緊急時の消防車両等々も含めて、あらゆるケースで飛行機を操縦するパイロットではなく車の運転手に無線通信で指示を与えることも管制官の仕事です。
管制官; …taxi to holding point via A (taxiway).
(滑走路手前停止位置までA誘導路経由で走行)
パイロット; …roger, taxi to holding point via A.
(滑走路手前まで誘導路経由で走行)
管制官; …contact tower 118.0, good day.
(周波数118.0でタワーと通信設定して。良い日を!)
パイロット;…contact tower, bye-bye.
(タワーと通信設定、了解。バイバイ)
towerとは航空管制官の担当席の名前を意味します。タワーは滑走路担当の管制官のことです。上記の会話は滑走路で離着陸をする飛行機に対して指示をしているのではなく、空港ターミナルから滑走路に向かう飛行場の地上面を走行するパイロットと管制官のやり取りを示しています。
地上面を担当する管制官はground; グランドと呼ばれています。すると、こんな呼び込みが今度は日本語でやってきます。
トーイング; グランドさん、こちらトーイング1です。
管制官; トーイング1さん、こちらグランドです、どうぞ。
トーイング1; 航空機ボーイング747型機、現在スポット(駐機所)1番付近を走行中。整備地区エリアまでトーイングリクエストします。
やってきました。英語でさっきまでパイロットと通信していたかと思えば突然割り込んでくる、日本語の運転手が登場です。トーイング(牽引)されている飛行機とは逆の意味で、飛行機自身で走行する航空機を自走機と呼ぶのですが、トーイングの飛行機というのは走行速度も遅いし旅客が乗っているわけでもありませんので、地上面では自走機の走行を優先します。
管制官; トーイング1、了解しました。(あ、その前に自走機だ!)お待ち下さい。
…break break…taxi via A, hold short of B.
(パイロットに対して, A誘導路経由で走行しB誘導路手前で待機)
パイロット; ground, roger, taxi via A, hold short of B.
(了解、指示内容の復唱)
管制官; トーイング1、A誘導路経由でトーイング支障あり…(自走機だ!)と、お待ち下さい。
…break break…taxi via A, hold short of B.
トーイング; (待たされて本望!旅客様が第一です!泣)
※ break breakは送信してる途中で一方的に指示対象者を切り替えるときに使い、呼び込みがあったパイロットの飛行機よりも他の飛行機への指示を優先したいケース等で使います。無線通信はその周波数に合わせて送信機の送信ボタンを押す者が同周波数帯での通話を占有できる仕組みなので、break breakは航空管制官の視点から言うと、他機に通信を奪わせないで指示をし続けるための無線テクニックです。
そのため夏場、アスファルトの照り返しが強い中、だだっ広い空港の誘導路上でただただ目の前を通り過ぎていく自走機を何機も眺めることも良くあります。そんな日は管制塔からチラチラっと眺めながら、
管制塔って屋根と冷房がある部屋で仕事できるだけ幸せだなー、
なんて思ったりもしてました。今だから言える話、僕はときどき管制塔内にある巨大な双眼鏡を使って空港全体を眺めたりしていましたが、夏場に外で作業されている方々の肌の黒さは並じゃありません。
貨物を取り扱う地区なんて一見男子校かと思うくらい、力強い男たちのテリトリーと化しています。
そんな飛行機を押したり引っ張ったり汗水流してまで旅客を第一に想うトーイングの運転手の方から、質問が一つ届きました。
私はトーイングをしている時、航空管制官とパイロットの通信の邪魔にならないように気を使っています。到着した飛行機が滑走路から離脱するシーンを見つけた場合なんかは、特に呼び込むのを控えるようにしています。だってもし私が長々と無線で喋ってしまったら、その到着した飛行機とグランドさんの通信を遮ることになるからです。このような気遣いが逆にやりにくいと思うようであれば教えてください。
、、、質問が深すぎます。
ですが、その慎ましい姿勢にやられましたのでこの質問には明日お答えしようと思います。
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