航空管制官になる前の大学生時代に塾の先生をしたのは、一足先にやっていた友人から一緒に仕事しないかと誘われて、当時の校長(個人塾はどうか知りませんが、複数の校舎がある場合は〇〇塾〇〇校なのでトップは校長と呼ばれる。)に紹介されたことがきっかけでした。
大学生の塾講師アルバイトほど、管理が難しいのは言うまでもありません。プロ意識が低い、というよりも持っていないのが当たり前で、厳しく指導するとモチベーションが下がるかもしれないですし、かといって塾で習う生徒の成績が伸びない先生に給料を払う意味がない。
管理者の気苦労を知らない人ほど好き勝手なこと言いますから、それを丸め込んでプロの塾講師としてアルバイトの意識を変えさせるのは容易じゃありません。そもそも、先生という職業は
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管制官と同じで、第三者がやり方を否定するのは御法度。
上司も部下も関係なく”やり方”については、個人個人が責任を持って自分が正しいと思うスタイルで授業を進め、その結果が跳ね返ってきて改善の糧にする。授業とは聖域なのです。クラス成績の伸び(管制官で言うなら飛行機の運航が安全かつ効率的かどうか)が、講師の実力を測る重要なポイントですが、それは一概に教える側だけの問題とは限りません。
管制官も飛行機(生徒)にスマートな指示をすることはできても、きびきび動く(成績が伸びる)かどうかはパイロット次第です。不具合か何か発生したときの状況をちゃんと把握せずに、一方的な主観で他の管制官に物言えば、気分を害して信頼関係も損なわれます。管制席、管制卓もまた聖域なのです。
さて、校長はそんな難しい状況でどうやって個人に現状を自覚させ成長を促していたのか、について一義的には毎月の全体会議がキーと言えそうです。月末の金曜日、生徒が全員帰った後、ビシッとした先生が普通の人に戻って他愛ない話をする約1時間くらいの場ですが、冒頭いきなり無慈悲な一枚のプリントが配られてから始まります。
その紙には、受け持つクラス毎の成績が前月比でどれだけ点数や偏差値に上下があったか、を数値化して順位が付けられています。
つまり、教える能力値ランキング表。
他にも体験授業に来た生徒を入塾させる率だったり、生徒個人の突筆すべき変化について書かれていました。点数がぐんと伸びた生徒は、この場でクラス替えをするかどうかの方針が話し合われます。それなら良い話に思えますが、逆のパターンになると自分が下手で生徒の成績が落ちて、下位のクラスの先生は教え方が上手だから追い越されている、と感じてしまいます。
また、会議の時間が余った時は、事前に指名されていた先生の一人が、カリキュラムからテーマを取り上げて模擬授業をし、他の先生は生徒役になって質問をわざとしたりする時間です。文系の先生方にも数学を分かった気にしてあげなければならないので、レギュラー授業より綿密な下準備が必要なくらいです。
やる方は見られたくないビシッとした先生モードを披露する恥ずかしい時間でしかありませんが、授業後は自然とお互いに本音で意見を言い合える雰囲気になります。ランキング上位の先輩や正式な社員の方の授業は色々と参考になりますし、目標にしたいとすら思わされます。
生徒ではなく教える先生を伸ばす仕組み
今では電車の中吊り広告で当たり前に見るようになった大手塾の秘訣は、ここにありました。
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