航空の世界ってどこかマニアックで近寄り難いイメージをお持ちの方も多いと思います。
僕自身も別に飛行機が好きだから航空業界を目指した訳ではなかったので、航空管制官になってから仕事のために仕方なく飛行機の勉強をしていただけでした。その時は。
だってその覚えなければならない知識の数たるや、空を越えて天文学的なんです。
まずは代表的な飛行機の種類や世界各国の航空会社と空港名、それぞれを決められた英語表記で読み書きできるように勉強するのですが、これがごっちゃごっちゃになり脳が悲鳴をあげます。
例を挙げると、EGLLがイギリスのロンドンヒースロー空港で、LFPGがフランスのパリ・シャルルドゴール空港で、RJTTが羽田空港です。BAWはブリティッシュ航空なのにスピードバードって読まなければいけない反面、AFRはそのままに近くエアフランス(航空会社名はエールフランス)って読むんです。ボーイングとエアバスっていうのが代表的な飛行機のメーカーだったこともさっき知った程度なのに、そういう規則性があやふやな謎の英文字を瞬間的に思い出せるくらいまで覚えなければ仕事になりません。あ、この分野だけでもざっと300以上はあるでしょうね。
なので、採用試験の受験勉強と同じくここでも一人前になりたい!っていう気持ちが試されます。
休日も返上で勉強して何とか周りに追いついていくのがやっとでした。
今だからこそ分かるのですが、飛行機や航空業界の勉強を辛く感じていたのは、まだ航空業界の奥深さに気がつくまでの知識がなかったから。
もっと早く興味を持てていれば勉強も苦じゃなかったと思うのですが、航空保安大学校を卒業するまでは暗中模索で乗り切りました。
実は飛行機や航空の世界は知れば知るほど面白いのです。
今でも別に飛行機を見ても何とも思いません。好きか嫌いかの以前に普通です。
ですが、いかにも複雑な仕組みで危なそうな乗り物が、世界中で当たり前に利用出来る理由を理解できたことは大きな財産に感じていますし、長い歴史の中で起きたトラブルや事故から得た様々な教訓を活かした安全への工夫、取り組みは、実生活でも役に立っています。そして今では、
飛行機や航空の世界の奥深さをもっと知って欲しいとさえ思うようになりました。
それでは、本題に入りますがその前に多くの方が勘違いしてる一つの事実を壊します。
飛行機ってそんな頻繁に乗る乗り物ではないので、毎週のように空港まで飛行機写真を撮り行くような人でなければ気が付かないですし、もしかしたら機内から見てるだけじゃ一生気付かないことかも知れません。
それは、飛行機(パイロット)は空港内の走行速度も、離陸滑走開始から浮遊するまでに要する時間も、着陸後に滑走路から誘導路へ抜ける位置すら違うということです。
言われてみれば当然のことかも知れませんが、普通の旅客が気にするのは航空会社の評判や機内サービス(CAさんが親切とか機内食が美味しいとか)であって、航空機の動きなんて気にも掛けてないと思うんです。
でもそれで飛行機乗ってたら勿体無いです。
空港の展望デッキでたまには外から飛行機の動きをよーく見てください。走行速度が同じではない、とすぐに気がつくことでしょう。特に注目するのは滑走路への着陸の瞬間。これは、パイロットの技量がバッチリ出るので、オリンピックの採点種目のように差が出ます。
同じ天気で同じ飛行機なのにもう全然違うんです。
管制塔からいつも見続けていたので、たまに天気が悪いのに審査員全員10点満点の着陸をする飛行機を見ると、そのパイロットのテクニックに感嘆すら覚えるようになりました。
説明しておいて何ですが、この違いを理解するのは容易じゃありません。
ですが、機内アナウンスの良し悪しなんかじゃ測れない、パイロットが本来求められている技量の「操縦」に少しでも興味を持ってもらえればと思って書きました。
それでは!
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