今日は航空管制官として一人で指示をして良い資格を得るための試験の日のことをお話しします。
航空管制官は航空保安大というところで最初に航空の基礎とも言える知識を学習します。在学中は実際に航行中のパイロットと通信をすることはありません。航空保安大では様々なシミュレーターを使って管制官の卵たちが管制官役とパイロット役に分かれて実習を行い、それを監督する航空保安大の先生(教官)であり航空管制官としての実績が豊富な先輩に指導を受けます。
ところが、卒業してから本当の試練の道が待っています。緊張感に打ち勝つ術は全国の空港に配属されてから学ぶことになります。痛いほど。
空港によって一人前になるための最終試験の内容、やり方は交通特性が異なるため様々ですが僕が受けた試験は二日間に渡りました。
最終日の夜、この時間帯の飛行機を上手にコントロールできれば試験は無事に終了です。とりあえず心を落ち着かせて大きなミスだけしないように気をつけよう、そんな気持ちで交代の声かけをしました。
目次
「交代します。」
そのポジションを担当している先輩の管制官と交代の引き継ぎをするところから試験は開始です。こっから先は全て自分の責任。航空管制官として航空の安全を守るため通信機器一つで立ち向かいます。
何事もなく進んだかのように見えていた試験の真っ最中、遭遇したことがない事態に陥ります。
まず周波数に呼び込んできた時点で、その飛行機に必要な指示を出しました。数分後、交通状況が変わってきたので次の指示をしようと再びその飛行機を呼び出します。
一度呼びかけましたが応答がありません。でもその飛行機は何事もないように走行を続けています。
もう一度呼びかけても一緒です。むしろスピードを上げているようにすら感じました。
さあ、どうする!何をすればいいか考えてるうちに飛行機はどんどん進む。
ここを一人で対処できなければ、試験結果も危うい方向に進むかもしれません。
上の図はパイロットと通信が取れないときの代替手段として有名なライトガンを使ったときの様子です。日本語で指向信号灯という通り、指向性(一方行直進性)のある光をコックピット目掛けて照射することにより、その色が意味する指示を発出するという方法です。
ですが、これには一つ欠点があります。
それは、パイロットがその光を認識しないと意味がないということです。それに、この手段を使う前に確認しなければならないことがまずあります。
「こっちの声は聞こえますか?」
これを最初に言いました。通信ができなくなったパイロットにではありません。
同じ周波数にいる他のパイロットに聞きます。他のパイロットとは正常に通信ができるなら、管制官側に機器の異常がないことが分かります。
管制官側の機器に異常がないなら次に考えることは、
応答できないだけで声は聞こえている可能性です。
飛行機側から言えば送信機はダメだが受信機は生きているかもしれない、ってことです。
ここら辺を考慮して対応を取れば難なく乗り越えられるパターンが多いのですが、その日だけは違いました。その応答しない飛行機は聞こえているそぶりが何もありません。
そのため、その飛行機は最後に自分が伝えた指示に沿って動くものと想定し、それ以外の飛行機を全部止める方針に決めました。それと同時に実践で初めてライトガンを握りしめます。
ライフルの照準を合わせるように動き続ける飛行機にライトガンの光を合わせます。手が震えて飛行機を追いかけるのがやっとです。ですが管制官が管制塔でライトガンを使っていることなど知る由もなく、他のパイロットからの呼び込みは続きます。それに応答しながら緑の光を当て続けます。
結局、その飛行機とは終ぞ交信が復活することなく、親の心子知らずで緑の光を浴びながらその飛行機はターミナルに到着しました。
この対応を最後まで見届けたかのようなタイミングで試験担当の方から終了を告げられました。
このように航空管制官として巣立つ者への手荒いお出迎えが、毎年のように繰り返されています。
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