ディッチングという言葉を聞いたことがあるでしょうか。Ditchは道路脇に掘られた溝のことを言いますが、そこから派生してDitchingは予想外の出来事にハマってしまうことを指し、航空業界では着陸する場所がない場合の最後の手段として海に着水することを意味します。小型機ならまだしも旅客機は海を想定するのが通常です。
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ハドソン川の奇跡は犠牲ゼロの結果
映画のハドソン川の奇跡はまだ見ていませんが、当時このニュースが世界中で流れていたときにニューヨークのATCとパイロットの交信記録を理解しようと、全文英語の分厚いA4用紙を持ち歩くカバンにいつも入れていました。2015年にアメリカン航空と統合する以前はアメリカ国内で4番目という大手エアラインだったUS Airwaysは一般的にUSエアーと呼ばれていますが、無線交信で使うコールサインは昔の名残から本拠地があるアリゾナ州で有名な”Cactus”(サボテン)です。
エンジンは片方あれば何とかなる
英語字幕付きの無線交信ドキュメンタリーが今すぐ見たい方は、説明を読まずに下の動画へ直行してください。飛行機に詳しくない方は旅客機の大雑把な種類とエンジンの性能について知ってから動画を見れば、なおさら奇跡感を味わえて動画を見終えた気分も晴れやかになるでしょう。
ジェットエンジンのテクノロジーは進化し続けています。以前は国際線を就航するエンジン2発機は、エンジン不具合時の安定飛行を維持することが、エンジンを3基以上持つ航空機に比べて難しいことから、大洋や北極付近を経由した最短経路を飛行することが出来ないルールになっていました。航空業界のルールは不具合が起こる前提です。夜間に飛行機がいない空港に管制官がいる理由は、上空を通過する飛行機が緊急で降りることになった場合でも安全に着陸できる体制を整えているだけです。
長距離国際線はエンジン4発が主流だった時代が崩れる
エンジン2発の旅客機は空港から60分以上離れた場所を飛行できない縛り、があったからこそボーイング747型機が当時は大ヒットしたわけです。飛行機といえばこの形、と思っている方も多いかもしれません。
他にも旅客機として主流に使わている4発機はA340(エアバス340型機)とA380(エアバス380型機)がありますが、現在では片翼に一基ずつエンジンがあるタイプの双発機が圧倒的にシェアを占めています。US Airways1549便も格安航空会社の代名詞とも言えるA320型機で、旅客機としては小〜中程度の大きさの双発機です。
双発機が国際線で大躍進を見せることになったきっかけは、ボーイング777型機が、
空港から180分離れた場所まで飛行が許される双発機の安全基準を突破したことです。平たく言うと、エンジン1発ダメになっても安定飛行を維持できる時間が、ジェットエンジンテクノロジーの進化と共に伸びたわけです。詳しくは英語でETOPS、日本で正式な適用根拠「国土交通省の双発機による長距離進出運航」で調べれば情報はたくさん見つかります。
両エンジンがフレームアウトの双発機は、ただの重いグライダー
不運にもカクタス1549は、離陸後まもなくして緊急事態に陥ります。管制官との交信を聞いていると、パイロットは不思議なくらい落ち着いていて、管制官はコックピットの(機体の)状況がどこか掴めていない様子です。パイロットは出発したラガーディア空港に戻れる余裕はないことがとっくに分かっているのに、管制官は出発したら通常は上昇もしくは水平飛行するはずの航空機が、どんどん速度を落としてレーダー画面上で高度を示す数字がゼロに近づいていく様を見て、何かパイロットのためにできることはないか考えては緊急着陸案を提示しているような雰囲気です。
ディッチングは下手すれば大事故になる判断です。小さな空港が10km先くらいにもありました。ただ、空港に向かったとしても滑走路まで届くほどの飛行時間が残されていなければ、住宅街にランディングして被害が拡大していたかもしれない。それを防いで犠牲者がゼロだからこそ”ハドソン川の奇跡”なのかもしれませんが、全ては無事にうまく行ったおかげ。
ハドソン川の悲劇にも成りかねなかった状況を、当時の航空管制官と他のパイロットも含めた交信記録に英語字幕付きで、ドキュメンタリー放送されたアメリカのテレビ番組動画が大量再生されていました。
まだ、映画「ハドソン川の奇跡」を見ていない人はレンタルビデオで借りられる日までに予習しておきましょう。
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