たまにはこんなキャッチーなタイトルを付けて見ましたが、記事を書き終わってみてこれで正解でした。
語尾のATCとは航空管制官の英語名Air Traffin Controllerの頭文字をとった通称のことです。詳しくはこちら
昨日の記事でも解説しました通り、飛行機の動き=パイロットの操縦には大きな違いがあります。誤解のないように言っておくと操縦の技量に差はありますが、それも個人の差というよりはその時々の差といった方が正確です。航空機の着陸はオリンピックの採点種目と例えましたが、それには調子が良い時もあれば悪い時もあるということも含んだ表現とお考えください。
いつも10点満点取れる人は人間ではない、そういうことです。
目次
パイロットは初対面コミュニケーションのプロ
過去に多くのパイロット、それもとりわけ機長になられている方々と接してきて一番印象的だった共通項は、初対面でも話しやすい雰囲気作りに持って行くことにとても長けている、ということです。あくまで仕事上の付き合いの場だけなのかもしれませんが、人見知りで緊張するタイプに出会ったことがありません。
きっと合コンにそういうパイロットが来てくれれば、年収とか立場とかを抜きにしてその場を楽しませるうえで大活躍でしょうけど、こんな表現では真面目な読者に怒られそうなので体験談をお話しします。
ドッキドキの初!搭乗訓練
搭乗訓練というのは実際にコックピットのジャンプシート(操縦席背後の折りたたみ補助座席のことで、旅客キャビン内で言えば飛行機出入り口付近やトイレの近くに良くあるCAさん用の座席)に座って体験搭乗をする航空管制官の研修の一環で、普段顔を合わせずに指示のやり取りをするパイロットのコックピット内業務を見学させて頂き、直接会話することで相互理解や議論を深める場としてとても有意義な機会です。
この訓練は航空管制官だけでなく民間航空会社の社員や、航空機の運航に関わる他の組織にも広く実施されています。他は分かりませんが航空管制官の場合は一定期間内にこの搭乗訓練をする義務が課せられるほど重要視する研修の一つです。
そういうわけで航空管制官なら誰もが通る道なのですが、まだ経験も浅く一人前になりたての若造にはハードルが高いイベントの一つです。僕も搭乗訓練が決まったその日から、前もってパイロットの方から聞かれるであろうことの傾向と対策を練り、コックピットで行う一連の作業や流れについても自分なりに調べ、とりあえずこの課せられた研修を無事に乗り切ることだけを考えて当日に臨みました。
航空会社の受付から大慌て
普段勤務している管制塔がある空港のターミナル内であれば、ミシュランより詳しくグルメガイドが書けるぐらい隅々まで知っているのですが、そこから少し歩いて足を踏み入れる航空会社のビル入り口に着くと、受付の方に用件を伝えるだけなのに早速しどろもどろ。官側で目にする庁舎ではありえないほど綺麗なロビーで行き交う航空会社のグランドスタッフ、整備士、キャビンアテンダント、バシッとスーツで決めた上役の方々に会釈するだけでともかく緊張していました。
今思い出そうとしても、はたしてロビーで待っていたのか、それとも別の待機室に案内してもらったのかすら覚えていません。いずれにせよ、いよいよ初めて顔を合わせたことのない無線通信の先にいる機長、副機長さんと対面するということで、国土交通省の職員として気丈に振舞おうとする頭の中は真っ白に近くなっていました。
この写真は海外の商用フリー素材ですが、リキュール類が並んでるのは一体なぜ??
まず自己紹介と所属を伝え、次にコックピットへの不審者の侵入を防ぐルールとして機長に身分証の提示をし、フライト前の気象ブリーフィング時から参加させて頂きました。初めからすでに知らないことだらけで、前もって準備した知識なんて何の役にも立ちません。
航空管制官になりたての自分では知りようのない知識だったので、そもそも準備なんてできるわけなかったという結論です。
もうしつこいくらい緊張感は伝わったかと思いますので、いよいよ今日のその時をご覧いただきたいと思います。
空港職員用の金属探知ゲートをくぐり、搭乗する飛行機まで向かうターミナル内の長〜い通路を機長と副機長の後ろをついて歩く若造管制官に、機長から声をかけてくれた言葉がお見事でした。
「フライト中にもし僕らのどっちかが倒れたら、代わりに管制官との無線通信を担当してもらうと思いますので、今日は宜しくお願いしますね。」
何も分からず搭乗訓練に臨む初対面の相手に対して、何と余裕のある発言なんでしょう。皆さんはどう感じられるか分かりませんが、あの時はこんな軽々とした半分冗談めいた言い方のおかげでとても救われました。
あまり経験はありませんが、頼りにしてるよって上司から言われたような感じに似ているかも知れません。
続けて隣にいらっしゃった副機長の方からこちらの機長の隣に座るのは初めてです、ということを聞き更に打ち解けられたのと同時に、毎回のように初めての組み合わせで空を飛んでいるという事実を知って驚きました。だって、毎日同じ顔の職場内ですら円滑なコミュニケーションって大変なのに、下手すれば事故になりかねない飛行機という乗り物を新登場(搭乗?)コンビで乗りこなしているんですよ。
何かもうその気遣いや深い優しさに、人としての格の差すら出ている気さえして、自分もこういうプロになりたいと強く思ったきっかけになった初搭乗訓練でした。
うだうだ言うと機長の素敵な言葉が濁るので、今日はこの辺で!
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