旅客機は出発から到着まで全ての動きに対して航空管制官の指示なしには動いてはいけない、ということは昨日お伝えした通りです。もしまだ指示はされてないけど動きたい、って思えばパイロットは管制官に指示くれ!指示くれ!てアピールしなければならないのです。航空管制官は複数のパイロットと同じ周波数で喋っていますからパイロットは他と競合してでも管制官に指示くれ!って言わないと、緊急時やそれに相当する事態を除き勝手に動いて“管制指示義務違反”に問われる恐れがあります。
これ、意外ですか?
パイロットってもっと自由に飛んでるものと思いがちですよね。
実際はもっとパイロットに裁量は与えられていますが、そのシチュエーションにもよりますのでまだ触れないでおきます。
パプアニューギニアのマウントハーゲン空港より
航空管制官は無線を使って同じ周波数にいる複数のパイロットに対して英語で指示しています。多くのパイロットに無線で指示する、ってわかるようでわからないですよね。実生活でトランシーバー使うことなんて中々無いですし、スマートフォンが普及した今なおさら見なくなりました。でも実は無線で会話するのはとても便利で有益なことなのです。
僕は一部レトロな人間なのでLINEとかのグループチャットは利用したことないのですが、あれも無線で指示する状況にそっくりです。グループチャットで司会者(航空管制官)を決めて、他の参加者(パイロット)は司会者から名前呼ばれるまで待たなきゃいけないルールで話してみたら、管制官とパイロットの気持ちが理解できるかもしれません。
無線で他人の会話を聞けるということは、その指示を受けたパイロットの動向を把握できることになります。この恩恵があまりに大きいので、航空業界では英語を公用語化したうえで無線通信を利用しているのでしょう。
中国の一部の空港では中国人同士が無線で中国語を使っているので、他のパイロットは誰が誰に指示してるのか全く分からなくて困惑するそうです。もしかしたら実は喋っている相手はパイロットじゃない可能性だってあります。何も分からないまますぐ近くを飛行している飛行機が、こっちに最短で向かってくる指示を受けてたら、怖いですよね。
そうは言っても航空管制官もパイロットもプロフェッショナルだし、言語分からないくらいでそんな大袈裟に警戒しなくてもいいだろうって思う方もいるかもしれませんが
それ、大間違いですよ
航空管制官もパイロットも今この記事を読んでいるあなたと同じ人間です。人間である以上、勘違いや言い間違いはどうしても発生します。勘違い言い間違いがなくて相手が言ってることに対してしっかり返答をしたところで、それでも行動を間違えるのが人間なのです。
そういう性質を理解すると無線を使う最大の恩恵とは、
管制官と指示の対象者以外の人が、通信を聞いて何かあったときの心構えをできる
ことにあるのかな、と思います。それ以外にも利点は挙げられますが、メッセージで確実なやりとりをするSNSツール全盛の時代、今だに無線通信による指示を基本としているのには安全に直結する理由があるからです。私生活でもそうでしょうけど、即時性を求めるならやっぱり電話ですよね。
今まさに雷雲を避けたいってときには、タブレットのようなものを使って冷静にメッセージなんて送信してられないと思います。他のパイロットもそのメッセージが送信されるたびに、ピロンピロン通知音がしてたら気が散るのではないでしょうか。
実はそんなレトロな通信機器を使ったコミュニケーションが、世界で最も死亡率の少ない乗り物である飛行機を支えているのです。
今日は無線の話をメインにしましたので、次回は元航空管制官が特に好む定型指示用語を紹介したいと思います。それではまた明日!
ちなみに、マウントハーゲン空港を一歩出たらこんな感じです。
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