航空無線

コミュニケーションの誤解は価値観の違いから

misunderstand

Live ATCという世界の航空無線が聞けるウェブサイトの無線交信を録音した、聞いて為になる動画が見つかりました。日常のコミュニケーションにも役立ちそうな、航空無線で誤解が生じたときの音声と英語字幕付きです。

感情を抑えながら冷静に話す管制官とパイロットの声を聞いて、運航中に味わうストレスの一部を感じてください。自分で見つけておいて言うのも何ですが、聞きながら少しパイロットにイラつきました。

イギリス、トムソン航空のパイロットとアメリカ、オーランド空港の管制官

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パイロット: Tower, TOM127 heavy is with you, and just holding short of B2.
「タワー、こちらトムソン航空127便(ヘビー)は通信を共にしています。ちょうどB2誘導路手前で停止しています。」
※ヘビーは、機体重量のカテゴリー、のちに出てくるライト(light)も同様。

管制官: TOM127 heavy, Sanford Tower, hold short of RWY 9L.
「トムソン航空127便、サンフォードタワー、滑走路9Lの手前で待機。」

💡  サンフォードタワー、というのはサンフォードが管制施設名にあたり、タワーは滑走路担当の管制官。離陸後に飛行機が直進すると90度方向(真東)に飛行する向きに滑走路を使用するから滑走路番号は9。この空港には平行滑走路がもう一本あるからRunway9番L(左)とRunway9番R(右)がある。今回の出来事はRWY9Lに向かう出発機の話。

パイロット: Yeah, 127 heavy, we can’t get past this light aircraft at the moment.
「はい、127便ですが、小型機がいるため通過できません。」

管制官: TOM127 heavy, roger, verify hold short of RWY 9L.
「トムソン航空127便、了解、(改めて)滑走路9L手前待機を確認。」

💡  誤解のチェックポイント 1.

パイロット: TOM127, we are unable to taxi, there is a light aircraft in front of us.
「トムソン航空127便、私たちはタクシー(地上走行)不可能です。軽航空機が目の前にいる。」

管制官: I understand that, but when I give you a clearance to hold short of a runway I need a read back, hold short runway 9L, please.
「それは、分かっています。しかし、私が言ったHOLD SHORT…指示のリードバックが必要です。滑走路9L手前待機、プリーズ。」

💡 誤解のェックポイント 2.

パイロット: OK, we’ll hold short runway 9L, TOM127 heavy.
「オーケー、滑走路9L手前待機。」

(数秒後)

パイロット: Tower, do you expect us to taxi over top of this light aircraft, TOM127 heavy?
「タワー、タクシーして右側の主翼が小型機の上を越えるように動くことを予期しているのか。」

管制官: TOM127, I’m not sure what you mean, you’re in control of the aircraft, do what you think is safe for you. I think the Ground Controller just taxied you to runway 9L, full length, correct?
「トムソン航空127便、私にはあなたが意味していることが分かりません。航空機の安全な操縦はあなたにあります。グランドコントロール(地上管制席)からも滑走路9番Lを全長使うために、滑走路手前までの指示が発出されていると思うのですが、正しいですか。」

💡 誤解のチェックポイント 3.

パイロット: Yes, but there is a light aircraft, if I taxi now I’ll put my wing over the top over the light aircraft. It’s an extremely dangerous situation, is what you expect me to do, TOM127 heavy?
「イエス、でも軽飛行機がいるんです。もしいま地上走行を開始したら、主翼がその飛行機の上を越えることになるのです。それは、とても危険な状況です。それを私に期待していますか。」

💡  管制官: So… When I say you hit the aircraft right now, you’ll do that!?とは言いませんが、そういう気持ちではあったと思います。

管制官: TOM127 heavy, negative, I expect you to hold short of runway 9L, you can either stop there and wait for that aircraft to take off, that’s fine.
「違います。私は(滑走路に入らないように)Hold short…することを期待しています。そこで止まろうが、(障害になってる)航空機を離陸するまで待とうが、それはFineです。」

(しばらく経って)

パイロット: TOM127 heavy is approaching B1, to hold, and ready for departure.
「トムソン航空127便はB1誘導路に近づいています。離陸準備はできています。」

管制官: TOM127 heavy, Sanford Tower, fly heading 080, climb and maintain 5000, runway 9L, cleared for takeoff.
「トムソン航空127便、サンフォードタワー、離陸後は磁針路を80度に、高度は5000フィートまで上昇、滑走路9番レフトからの離陸を許可。」

パイロット: (離陸許可復唱)

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目次

コミュニケーションで誤解を生むチェックポイント

コミュニケーションエラーは大体が些細なことから始まり、段々と大きくなっていきます。管制官は特定のパイロットとの無線だけに時間を使えません。優先順位は安全が一番だからです。今回のようにトムソン航空のパイロットばかりに気を取られていると、平気で飛行機はぶつかっちゃいます。クレームに近いやり取りも時々ありますが、冷静に対処しないと自分の首を絞める結果にも繋がります。

生真面目同士よりは、ちょっとズルいくらいで丁度よい

チェックポイント3. で航空管制官はこのようにパイロットへ言います。

「私にはあなたが意味していることが分かりません。」

この発言は、パイロットが管制官に対して、右側に当たりそうな飛行機がいるのに走行して良いのか、と何度も聞くため思わず口から出てしまったのでしょう。英語のコミュニケーションにおける基本とも言えますが、話は長くなればなるほど意図が伝わりにくくなります。ストレートで完結に、が一番です。

また、このパイロットが大きく誤解してることは、管制官は管制塔から見ているとはいっても、飛行機の翼端が当たるかどうかまで細かくは判断できないということです。特に出発滑走路の末端ともなると、誘導路上に並ぶ飛行機は尾翼と側面くらいしか目に映りません。だからこそ、パイロットには地上走行中の見張り義務があります。

運航の責任者として何か言うなら、こう宣言したほうがまだ良かったです。

パイロット: Tower, Request holding short of B2 due to traffic.
「タワー、(交通状況のため)B2誘導路手前での待機を要求します。」

thomson-airwayイギリス第3位のエアライン・トムソン航空

チェックポイント2. では航空機運航のルールに対する価値観の違いが大きく出ています。オーランド空港の管制官は、滑走路の手前で待機と言ってはいるが別にいますぐそこへ行け、とは言っていません。前述した通り、タクシー(地上走行)の安全確保はパイロットに任されているという原則があり、

  • Hold short of runway→滑走路手前待機→滑走路に入らない
  • Taxi to holding point→滑走路停止線までタクシー

このどちらの用語においても、パイロットは自分の判断で速度を減速したり、障害物と感じる航空機がクリヤーになるまで待って良いです。思考を変えて、”管制官はHold short of runwayを指示したのだから、何分経ったあとでも滑走路手前まで向かう許可は得ている”という体でHold shortを復唱したらいいんです。

先行機にふさがれて遅延を受けるのが嫌なんですかね。いま滑走路手前まで行っても結局待つことになるのに。管制官もパイロットも生真面目です。ガチガチの二人が自分の価値観を見せ合っています。

交信は適当に、思考は柔軟に

チェックポイント 1. で、二人のコミュニケーションはいきなり崩壊です。冷静に読み返せば、誤解を防ぐ良い対応が思いつくはず。航空無線は、感情的になったらオシマイです。

管制官「滑走路の手前で待機」→パイロット「邪魔がいて通過できない。」→管制官「わかった。滑走路手前で待機。」

最後に、管制官が言うRoger…は誤解を生みやすい使い方です。特にRogerの後ろにさっき確認したことと同じ用語を付けてしまうと、自分が発した英語自体が理解されておらず、相手は同じ指示を繰り返しているに過ぎない、と受け取ってしまい改めて確認したくなります。

「滑走路の手前で待機」→「邪魔がいて通過できない。」

と言われたら何と答えれば良いか。

良い、の判断基準はいかに誤解がないか、とします。

「邪魔がいて通過できない。」→「了解、B2誘導路手前待機」
ex.) TOM127, roger, hold short of B2.

「邪魔がいて通過できない。」→「了解、トラフィックのクリヤー後にタキシー継続、滑走路手前待機」
ex.) TOM127, roger, after clear of traffic, (continue taxiing) and hold short of RWY9L.

TCASの説明はこちらたる自覚がないパイロットにはこれくらい言ってあげないと。復唱し易い単純な指示に変えて、早く他のこと考えたほうが空のためです。

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1 Comment

  • Reply
    てっちりん
    2016年10月24日 at 3:42 PM

    WEBサイト全体のメンテナンスを完了し、コメント、掲示板ともに現在は正常運転です。トラブルシューティング(航空機に異常が発生したときの対処)の大変さが身に染みました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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