成田空港で発生したエンジントラブルのニュースを取り上げたものではありませんが、一般のメディアでは詳しく説明できない点も含めて、離陸中に不具合が発生して出発を中断した場合に滑走路ではどのような対応が取られるのか説明します。滑走路を閉鎖してから再開するまでの間、航空管制官はパイロット以外にも滑走路点検車、影響の大きさにもよりますが消防車にトーイング、急停止でタイヤがパンクしたり衝撃で機体部品が散乱した場合はスイーパー車両(一般道路清掃車の滑走路バージョン)の運転手にも日本語で直接指示をして、パイロットの意向を聞きながら滑走路の運用再開に向けて着々とプロセスを踏んでいきます。
目次
離陸滑走の中断は誰もが予期せぬ不意のトラブル
航空管制官をしていれば数え切れないほど飛行機のトラブルを目にすることになりますが、離陸中断は突発的に業務負荷を上げる要素をたくさん含んでいます。
飛行機が離陸をするには加速が必要です。パイロットはフライト毎に算出された重量からローテーション(機首引き上げ)のタイミングを計ります。エンジンの出力を上げて加速を開始して、実際に機首引き上げをするまでの間であればいつでも離陸中断できるのか、というとそれは違います。飛行機は80ノット(時速150km)を越えたときにコックピット内で「80(エイティー)」と機械音声が出るのですが、これは高速滑走の状態に移ったことをパイロットに注意喚起して、もう急停止したら危険性が出てくるよ、と教えるためのものです。
英語でアボートテイクオフ(aborted take-off)やリジェクトテイクオフ(rejected take-off)と言うので、空港の管制塔から出発機の急停止に気がついたらタワーの管制官は、
「出発機アボートしてます!」
って、まず周りの管制官に知らせます。
管制塔内、いや空港全体に向けてバタバタ作業開始の合図が出される瞬間です。
滑走路閉鎖時間を決める不具合レベル
通常、アボートするのは離陸滑走を開始してほんの5秒後程度です。離陸時のセッティングに間違いがあるくらいなら、出力を上げた時点で機上の装置が反応してすぐ停止するよう警告をします。そういうケースなら再出発の準備までそんなに遅延は出ませんし、滑走路にも影響はないため閉鎖して点検する必要もありません。
ですが、前述した通り離陸滑走を中断する方が危険度が高いケースもあるので、パイロットはあえて離陸を強行して上空で落ち着いた後に不具合を検証する場合もあります。タイヤが摩擦熱で燃えて機体が煙に包まれる中、空気の滑り台で緊急脱出するよりマシですからね。
滑走路上で不具合が起きた場合の主役となる車は滑走路点検車両です。
不具合が大方片付いたら、次に滑走路を使う飛行機のために落下物等が路面に残っていないか最終確認をします。点検車両の運転手が長い長い滑走路を肉眼でチェックしながら走り抜けて、問題なければ滑走路再開へと向かいます。
消防車については管制官が指示するしないに関わらず、滑走路上で大きなトラブルが起きれば緊急出動します。街中の消防署から出動するわけではなく、空港敷地内でいつも待ち構えて空港火災や飛行機の機体破損時には助けにきます。突発的な事故で緊急出動ということになれば、複数台の消防車が滑走路上にいる飛行機の周りに集結します。
パイロットは機体の様子を外から見られない
ので、管制官は車両の運転手に機体を外から見た様子を尋ねて、パイロットに無線の会話を聞かせます。パイロットが外国人だったら、運転手からの報告を管制官は通訳して伝えなければなりません。緊急事態とかイレギュラーが発生したときは、不具合解消に向かう指示よりも状況説明の方がより重要で、管制官は決まってもないことを推測で言ったり、こうなるだろうで適当に遅延時間を伝えてしまうと、後でそうならなくて事実上嘘の情報を流す形となってしまいます。
誰だって慌ててしまう状況ですが管制官はトラブルの当事者ではないので、冷静になってパイロットと現場作業する車両のドライバーが少しでも落ち着くように、通信で気を遣えるようになれるのが理想です。
普段は航空無線でGood dayとか自分から言わないタイプでしたが、こういうことが起こると自分から声をかけたくなります。離陸を中止したからといって飛行機の運航が止まるわけではありません。空港のオペレーションに大きな影響を与えてしまったことにパイロットは責任を感じながら、再度離陸して今度こそは目的地まで安全にフライトしなければなりません。
だからせめて管制官はパイロットを労う声を最後に一言かけて、自分の空港から送り出してあげてほしいと個人的に思います。こんなことは日常茶飯事なので安全に飛行することだけ考えてください、との思いを伝えるために、
Have a good flight.
再び離陸して気持ち新たに目的地へと向かうパイロットに、必ずかけてた言葉です。
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