飛行機は目的地の空港に着陸するまで、いつの段階でも振り出しに戻る可能性がある乗り物です。滑走路から離陸する前の段階(ターミナルから滑走路まで走行しているとき)に引き返すことになれば、元々居た駐機場まで引き返します。しかし、離陸して空を飛んでしまってから引き返す場合は、
- 機体に不具合を生じたまま目的地まで行ったほうがいいのか
- あらかじめ飛行計画に記載していた代替空港に目的地を変更するのか
- いま飛行してる地点から近いところに目的地を変更するのか
- 出発地まで戻ってイチからやり直すのか
の4つの選択をパイロットは迫られることになります。地上にいるときに引き返すことをグランドターンバック(GTB)といい、飛行してから引き返すことをエアターンバック(ATB)といいます。素人感覚だと、ATBなら「なるべく目的地の空港近くまで行って、近隣の空港に一旦降りて修理し、再び出発して目的地を目指すのがベスト」と考えてしまうでしょう。しかし、飛行機の運航はそう単純にはいきません。飛行機はどこの空港でも修理できるという訳ではないんです。自動車だって近場の量販店に持っていけば、その場でチャカチャカいじって直せるかというとそうでもないと思います。例えば、整備士さんが手一杯で不足してるなら待たされるでしょうし、故障の種類によっては取替る部品が置いてないとか、そこの設備では対応できないのでもっと大きい工場に持ち込まないと直せないとか、いろいろと事情があると思います。
飛行機の場合はもっと複雑です。JAL、ANAのフライトなら全国の空港にグランドハンドリング(航空券の発券や搭乗案内と飛行機のプッシュバック、牽引、旅客の荷物や貨物を搭載等を行う地上支援業務)の系列会社があるので大体の空港でATB機に対応できますが、その他多くの航空会社はあらかじめそういったケースにおけるグランドハンドリングについて契約を結んでおかなければ対応できません。いきなりATBで見知らぬ空港に降りてきて「グランドハンドリングお願い!」って言われても、人も設備も余裕があるわけではないので断られるでしょうね。今にも墜落しそうなほどの緊急状態ならそれでも着陸するでしょうけど。
それから整備にはすぐ終わるものと時間がかかるものがあって、エンジンやフライトコントロールの部品のオーバーホール等の重整備は格納庫(ハンガー)で整備します。ところが、そのような整備が行えるハンガーを備えている空港は、全国でも羽田、成田、関空、中部セントレア、福岡等の基幹空港にしかありません。そういうわけで、飛行機は出発空港と目的空港以外の空港に気軽に降りるわけにはいかないのです。
目次
GTB発生のときの交信例
パイロット: We request return back to gate.「当機はゲートに戻ることを要求します。」
管制官: Roger, Request reason for GTB. / What is your nature of problem? / What kind of problem do you have?「了解、GTBの理由を要求します / 問題は何でしょうか。」
パイロット: It’s minor trouble.「軽い不具合です。」
※理由を聞くのは重要。例えば、オイル漏れや部品の落下等であれば別途、路面清掃や消防車両の出動要請といった対応が必要になるため。
管制官: Roger, Request spot number.「スポット番号を要求します。」
パイロット: Gate number 5.「5番ゲートです。」
管制官: Roger, Taxi to Spot No.5 via A, B, C…「了解、スポット5番までA、B、C誘導路経由で地上走行してください。」
ATB発生のときの交信例
パイロット: Request return back to airport.「空港に戻ることを要求します。」
管制官: Roger, confirm you are ready for approach.「了解、進入の準備は整っていますか。」
パイロット: Affirm, request radar vector to Runway 22 ILS approach.「はい、滑走路22へのILS進入に向けてレーダー誘導を要求します。」
管制官: Roger, stand-by for coordination.「了解、調整のためスタンバイしてください。」
6 Comments
とも
2019年1月4日 at 12:35 AM読んでいて気になったのですが、
基幹空港であれば、目的地以外でも降りることはあるのでしょうか?
また、着陸の際に残燃料制限があるって聞いたことがあるのですが
エアタンの時って、問題ないのでしょうか?
てっちりん
2019年1月6日 at 4:22 PMそれはよくあります。通常、フライトプランに代替空港が記されているので、その空港に着陸します。3・11で成田空港の滑走路が閉鎖したときには多くの飛行機が羽田空港に降りました。ご存知かもしれませんが、専門用語でダイバートといいます。
ATBで制限になるのは残燃料制限、というよりも重量制限の方です。燃料が残っていると重いうえに高速の着陸になるため、接地時の衝撃でパンクするかもしれませんし着陸時の減速が滑走路内で間に合わないかもしれません。そのため、時間的余裕があれば航空機は上空待機しながら燃料投棄した後に着陸します。
この記事の例文にある、
管制官: Roger, confirm you are ready for approach.「了解、進入の準備は整っていますか。」
は、まさにそのことも確認しています。not ready for approachの一例として、
Request fuel dumping for 1 hours「1時間燃料投棄を要求します」
と返答があったりするのです。
とも
2019年1月15日 at 7:47 PMお返事ありがとうございました!
管制官の試験勉強のことで
アドバイスいただけますでしょうか?
リスニングの勉強をずっと続けてきたのですが、力がついてきたような気もするし、
まったく進歩していないような気がするという現状です。
年明けからこのまま今の勉強を続けていっていいのか不安になっています。
現状は、過去問を中心にディクテーション、オーバーラッピングをやって
その他、TOEICの教材や英語のニュースアプリなどで流し聴きするようなことをして
います。
お忙しいところ、恐れ入りますが
何か意見頂けたら幸いです。
てっちりん
2019年1月20日 at 11:34 AM管制官になってからも勉強だらけです。
試験勉強はまだその始まりに過ぎませんよ。
とも
2019年1月20日 at 10:01 PMお返事ありがとうございます。
そうですよね。場違いな質問失礼しました。
私のコメントは、可能なら削除していただけたらと思います。
お手数おかけしますが、何卒よろしくお願い致します。
てっちりん
2019年1月21日 at 10:34 PM学問に王道なしなんです。逆に言えば、全てのやり方が王道に通じると思ってるので、自分がいいと思うやり方を信じて突き進んでください。