TCASの説明はこちらの記事に載せています。航空管制官になると研修等で民間の航空会社や組織に出向く機会があります。国家公務員の研修なんて聞くと世間は国家予算の無駄遣い!と考えがちですが、多くの研修を実際に体験した素直な感想を言うと、航空管制官の仕事の身になるように良く考えられた研修が多かったと思います。
”TCASフライトシミュレーター体験搭乗研修”は、印象に残っている研修の一つです。空中で衝突する直前、TCASから警告と回避指示が出た場合にパイロットはどのような回避操作をするのか、管制官がパイロットに成り代わって身をもって学ぶというのが趣旨でした。
自分がもしもレーダー管制をしているときに、衝突する飛行機に気がつかなかったら最後に守ってくれるのはTCASとパイロットです。管制官は管制間隔を切った2機の行方を見守ることしかできないので、回避操作がどれだけ難しいのかとても気になるところです。
目次
フライトシミュレーターとは
簡単に言えば飛行機ゲームの航空会社本気版です。飛行機の動きを完全リアルに再現しているので、下手な操縦をすると、旅客機で日頃は味わえない飛行機の揺れを体験することになります。教育担当のパイロットの方から、TCASが作動した場合の社内規定や航空機マニュアルの説明を頂いたあと、立方体のような球体のような固まりの中に入り込みます。
フライトシミュレーターは機械自体も当然高価なものですが、動かすだけでも多くの費用が掛かる民間航空会社の貴重な設備です。今回、フライトシミュレーターを操縦できるのは、航空管制官と言えど参加者のうち数人だけでしたが、運の良かったことに最後の番で操縦桿を握らせて頂きました。
最後は対面から飛行機2機を当てにいきます
そう言われても飛行機は乗るより見る派の管制官ですから、操縦桿は倒すか押すかも分かっていません。コックピット内の装置の名前やモニターに表示される数字の意味は、搭乗訓練で覗いていたので分かりますが、フライトシミュレーターが動き始めると素人同然で、航空機の向きを軽く変えるくらいしかできません。
何となく操作に慣れ始めたころ、予定通り2機の飛行機が息を合わせてこっちに向かってきました。
航空管制官から指示はないので、衝突する可能性がある飛行機が向かってきていることに気がついても、現時点では水平飛行を維持するしかできません。この時点で管制官に何も言わずに操縦桿を動かせば、管制指示から逸脱します。
TCASが上下2機に挟まれて回避指示を出すと、ディスプレイにはこのように表示されます。
回避操作とは赤い台形から外へ出ることです。通常なら台形は片側にしか出ません。上昇なら上昇、降下なら降下で、相手機は逆向きの台形が出ているので行き過ぎる分には構わないということです。
この場合は上下で挟まれているので行き過ぎると対向の飛行機に当たります。写真のままを維持しても問題ありませんが、やや上昇率を上げて中央の白い点が下側の台形からもう少し離れれば、なお安全です。
素人でもあっさり回避できます。時間的にも余裕がありました。
緊急度が高いことに変わりありませんが、回避操作は急激という程でもありません。キャビンにいる乗客は気がつかないくらいの上昇、降下率で済みます。
管制官、パイロットともに、もしものときのTCAS頼みです。
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