航空管制官

英語がなきゃ離陸許可すら出せません

海外管制塔

■ よくある質問と回答(ネットとかで見る)

「航空管制官って英語で指示するんですか。」

「はい、全て英語です。いろんな国の人いるんで。」

「国内便のパイロットも英語ですか。」

「はい、全て英語です。いろんな国の人聞いてるんで。」

「社内も英語公用語ですか。」

「基本は日本語ですけど誤解がないように伝えたいときは英語を使います。」

「ふーん(思考終了)。そうなんですね、ありがとうございました。」

(、、、本当は日本語でも出来るけど国際ルールで決まってるし英語使うんだ。何かカッコイイ!)

ここで、終わっちゃダメなんですね。

それだとまるで本当は日本語で指示したほうがいいけど、戦後体制のなれの果てで白い人達が決めたルールだし、何か世界的に英語が公用語化してるからちょっと外国被れなお仕事なんだ!って思われちゃいそうでもどかしいです。

■ 僕がこの質問を受けた場合(興味本位程度)

「航空管制官って英語で指示するんですか。」

「そうっすね、英語っす。」

「国内便のパイロットも英語ですか。」

「そ〜〜っすね〜〜、まあ基本は同じく英語っすけど、表現難しいときたまに日本語。」

「社内も英語公用語ですか。」

「日本語と英語を上手に配合してブレンド派っす。」

「ふーん(思考終了)。そうなんですね、ありがとうございました。」

「ちょっと待て。その話、2軒目で続きやるから。」

(2軒目にて)

「あのさあ、さっきの質問だけどさ、日本語じゃ離陸許可を出すのも無理なんだよね。というか日本語も英語もその場で上手く使い分けなきゃ仕事になんないんすよ。相手日本人なら日本語の方が全部いいって思ってるワケ??Nonノンノーン、チッチッチ、そんな単純じゃないでしょ。こっちの指示を聞いた相手の受け取り方とか矛盾がないように伝えるとかそういうの考えて、一番いいの選んでコミュニケーションすんじゃないの?実生活だって君・・・。」

と、こうなる可能性が高いです。

空想の話はここまでにしておいて、なぜ日本語じゃダメなのか説明します。

目次

離陸許可は何を伝えているのか

これを説明するには実際に航空管制官が無線で指示を出すときのフレーズ例が必要となります。状況設定ですが、冬の風ビュービューくらいを想定して、滑走路も南の方向に設置されている空港の想定でいきましょう。このブログは日本の航空会社色に染めて片棒を担ぎたくないので、いかにも英語らしくここはアメリカン航空(航空便名: アメリカン航空111 、無線通信での呼び名: アメリカン)で離陸許可の指示例を解説するところから始めます。

日本語で言うなれば、パイロットに伝えなきゃいけない情報を詰め込んで、

「アメリカン航空111便、風向360度(真北の風)、風速10ノット(≒ 5メートル毎秒)、滑走路36番(これまた真北の360度方向に飛ぶ滑走路だから36番)からの離陸を許可します。」

はい。するとパイロットはこの指示の内容を口頭でもう一度言って確認をとる(復唱する)義務があるので、

「アメリカン航空111便、滑走路36番から離陸許可、了解。」

と復唱して、ようやくあの離陸を開始する時のウィーンとエンジンが高鳴る音が響き始めます。

ストップウォッチを用意したので上記「太字」の日本語による離陸許可(こんな用語ありませんので想定して作った指示ですが)を、噛まないで相手に伝わるであろう速度で音読して時間を計ってみてください。

Stopwatch
h:m:s:ms

どうでしたか?僕は風速と風向を読み間違えましたが10秒で何とか読めました。

この指示を実際に航空無線で使われる英語の定型指示用語で言うと以下のようになります。

英語の(正式な)離陸許可発出

American111, wind 360 (degrees) at 10 (knots) runway36 cleared for take off

※111はワンワンワン、360はスリーシックスゼロ、runwayはランウェイで滑走路のこと、カッコ書きは無視しても良いので知りたい方だけ調べてください。あとの英単語は日常会話と同じ発音です。

この指示は何秒で言えましたか?初めて読んだら10秒以上かかっても仕方ないでしょう。ですが、そこらへんのネイティブアメリカンにこれを読ませたらゆっくり喋っても5〜6秒が標準の速度だと思います。で、その管制官の指示に対してパイロットは復唱しますので、この通信に使う時間を単純に足して比較すると、

日本語:約20秒

英語:約10秒

という結果が出ました。(こんなザックリとした計算で許してください。)

飛行機が約2分に1機ずつ離陸する、と考えて離陸許可の指示に掛かる時間を比較すると、

日本語:30機で600秒

英語:30機で300秒

となり、300秒も時間をセーブすることができます。30機出発するのに必要な時間が1時間、そのうちの300秒=5分間も発声をしなくて済みます。

また離陸する飛行機には滑走路に入るその前に、僕が一番好きな指示として紹介した

Line up and wait(滑走路に入って待て。)

→ American111 runway36 line up and wait

も言わなきゃいけませんので、日本語だけで指示をすると1時間のうちにこれだけで10分くらいは損することになります。

これ、全然仕事になりません。

1時間の間に、「アメリカン航空111便、風向360度・‥」というセリフを30回も言ってパイロットが復唱するのを30回も聞いて確認するなんて、考えるだけでも気が遠くなります。

僕が2件目にまで連れて行って伝えたかったのは、

日本人だから日本語とかそういう次元ではなくて、どの相手でも英語じゃないとお話にならないから英語を使ってる

っていうことです。

実際のところ英語を使うようになった経緯とか正式な会議とか知ったこっちゃないですが、実体験上これだけは間違いなく言えます。

お分かり頂けましたでしょうか。

今日はいかにも理系出身らしい記事になってしまいました。

明日は気をつけます。

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