管制塔

You are kidding me?「(出発を許可しないって)冗談だろ?」

夜間の空港

当ブログを2016年6月に開設した遥か前、2010年3月に初めて管制官のブログを開設しました。当時の私はまだ現役の管制官でしたが、現在ほどインターネットの利用についての厳格なルールが社会的に決められておらず、国家公務員の組織においてもまたそれは同じでした。管制官をなぜ辞めたのか聞かれることがよくありますが、一つは新しいことに挑戦したくなったから、そしてもう一つは現役の管制官として情報発信することは許されない風紀に世の中が変わってしまったからです。

国家公務員を辞めたからといって守秘義務がありますから、一般に広く知られていること、調べれば分かることを除き、通常では知りえないことや個別の名称を使って秘密事項などを表に出すことは出来ません。そういったことに該当しない話と考え、当時のブログで書いていた内容を少し編集して再アップしました。

You are kidding me?

投稿:2011/04/02

法や規則を遵守するために管制官が抱える苦悩についてエピソードを紹介します。一般に私達はたくさんのルールに縛られて生活していますが、中には理不尽なルールもいっぱいありますよね。例えば、高校の頃の校則なんて納得いかないものばかりだった記憶があります。

更には、確かに正しいけども今回の状況は見逃しても良いのでは、と感じることもあるでしょう。物陰に隠れて待ち伏せし、交通違反を取り締まる警察官にはいつも反感を覚えてしまいます。情が全く無い、とはいえども規則は規則。一人を許せば他に言い訳がつかない。実は、法や規則を守らせる立場ってのも辛いんですよ。

私が勤務している空港には、離着陸禁止の時間帯があります。地元の方々との協定で定められた騒音規制というものです。指定された時刻から1秒たりとも早く着陸してはいけないし、1秒たりとも遅く出発してはいけない規則となっています。天候の急激な悪化、天災、その他の特別な事情、を除きこの時間帯は変えられないのです。

ある夜の話。とある貨物便が予定より遅れて到着しました。その飛行機は同日中に次の目的地に向けて出発する予定であることが分かっていました。

管制塔からは外で行われる作業が良く見えます。到着したばかりの飛行機でしたがまた出ていくとあって、貨物の積み降ろし、燃油補充、機体点検、コックピット内の作業など、本当に大忙しだったことでしょう。滑走路から道のりで3kmくらい離れたゲート(駐機場)で着々と離陸に向けた準備が行われていました。

そのとき滑走路の管制を担当していた私は、騒音規制の時間内で離陸するのはもう間に合わないだろうと確信していました。

しかし、パイロットは諦めません。速やかに作業を終えた後、プッシュバックを要求し、タキシング(地上走行)の速度も普段より明らかに速かったです。今夜中に必ず出発したい、と感情を表現しているかのようにも見えました。ゲートから滑走路までの3kmの道のりにかかる時間などパイロットの操縦次第で大きく変わります。

大抵こういった制限時間ぎりぎりになる出発機は、滑走路に到達するずっと手前ですでに出発が間に合わないことをパイロットも認識したうえでゲートに戻らせる展開になることが多いのですが今回は違いました。管制塔にいる誰もが間に合わないだろうと思っていたその貨物機は、地上管制席の管制官が時間に間に合うかどうか悩む程巻き返し、結局は離陸可能な時刻まで1分を切ったくらいの時に滑走路の手前までたどりつきました。

しかし、その時点になって、離陸滑走を開始しても間に合わないと私は確信しました。そして、ついにその時がきます。

Pilot: Tower, we are ready for departure.「管制塔、出発準備が整いました」

Tower: Roger.「了解」

Tower: …Hold position. The time has come. You can not leave tonight and must go back to your gate.「現在地で待機してください。時間が来ました。今夜は離陸できないので、駐機場に引き返して下さい」

と伝えると、

Pilot: You are kidding me?「冗談だろ?」

と返答がありました。ここまで頑張って準備してきて、たった数十秒の遅れも許してくれないのか、パイロットからすればそう言いたくなることはわかります。私もこんなこと言いたくありません。ただ、ルールを課さなければならない立場として、次のように言わざるを得ないのです。

Tower: It’s not kidding. This is our rule for noise abatement.「冗談ではありません。これは騒音防止のためのルールです」

再び地上管制席の管制官と交信するよう指示しました。ゆっくりとした速度で戻り始めた飛行機を見ていると、またしても感情を表現していように思えてきました。さっき猛スピードで走行していたときとは違い、落胆に満ちた雰囲気でした。

規則だから仕方が無い、とパイロットに言い聞かせましたが、何だか人としては間違ったことをしているような気持ちになりました。自分が独断で離陸を許可して、騒音問題だ!と騒ぐ住民に謝罪して処分を受ければ良かったのでしょうか。しかし、それを許してしまえば、過去に離陸を断念したその他多くの飛行機に対して、納得できる説明はできない。

時間に間に合わなかった航空会社が悪いだけだよ、と自分に言い聞かせることがとても辛かった出来事でした。

法を守らせる立場を担うというのは、大変なことです。

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