管制塔

管制官に認められた気がした夜勤明けの食堂

航空管制官はシフト勤務です。日が昇る前から仕事の準備を始める日もあれば、電車の一般的なラッシュと逆方向で空港に向かう日もあります。管制官になったばかりの頃は、休息や睡眠の取り方が分からず戸惑いました。周期的に休みが決められているので先の予定が立てやすいことは良いですが、ゴールデンウィークや盆、正月をゆっくり過ごせないのと引き換えです。

不規則な勤務時間の仕事を経験していると、毎朝同じ時間に目覚ましを掛けて週末まで頑張れば休みがくる普通の日々を、少し羨ましくも思えてもきます。何かとピークは避けて行動できますが、実態はLCCを使った一人旅行が増えるだけでした。

何も用事がないのに周期でやってきてしまう休日は、夜勤明けから始まります。夜勤を思いつめながら過ごすことになったその朝は、いまいち直ぐ帰る気にはなれなかったので、普段はあまり立ち寄ることがない社員用の食堂で朝食を済ませることにしました。

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航空管制官として周りに認められるには、どうしたらいいか。

そんなことばかり考えるようになっていました。先が見えない状況で人は冷静さを欠きます。過ぎてみれば大したことがない、と言いますがそれは結果的に良い選択をしてこそです。前日にこっぴどく仕事を酷評されて上司からストレートに「君はこの仕事に向いていない。」と言われれば、「はい。私が無能で悪かったです。」と極端になるのも仕方ありません。

 

(朝食を食べたら自分と周りのためにも、辞めることを伝えに行こう。)

 

と、考えていました。すると、幸運にも辞めることを伝えるべきチームの長がそこに居たので、一緒に食事を取りながら本心を探られないよう他愛ない話を始めました。

朝食で使える時間は長くありません。夜勤明けで家に帰る前、空腹を満たして帰る程度なので、話しを切り込むなら早いほうがいい。そんなこと考えていたせいか、少し強い口調になりましたが、

「僕は航空管制官に向いていないので、辞めて別のことを探したいと考えています。」

と、素直に打ち明けました。実際、転職情報サイトにも登録して色々探したこともありましたし、あの時は若者なりに必死だったんですね。

レーダールーム

「君はとても勘違いされ易いタイプの人間。そして残念ながら心で思っていることまで分かる人は少ない。でも、当たり障りなく溶け込める奴はロクな管制官になれない。周りにすぐ認められる管制官は、組織にとって都合がよい将来が待っている。何と言われてもどんな目にあっても、思い切りやって暴れなさい。じゃじゃ馬ほど名馬になるもんだよ。」

予想外の返答でようやく我に帰りました。全員からダメの烙印を押された気でいましたが、目の前にいる最も経験があって所属チームを管理する立場の人が、よそで聞いた話と違うことを言っている。

落ち着いて考えれば分かりますが、何年の経験があろうとも世の中で他人を完璧にジャッジできる人なんかいません。言う人も言われる人もまた人。不安が影響して悪い側面が助長される弱い生き物です。

あの憂鬱だった夜勤明けがなければ、その後の管制官としての人生もありませんでした。当然、航空管制官のブログを立ち上げて日本に正しい理解を広めなければならない、という気持ちが芽生えることなど決してなかったでしょう。

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