管制塔

ヨーロッパ方面の定期旅客便が遅く出発したい不可思議な理由

飛行機の中に閉じ込められる時間が耐えられない人は少なくないと思います。窓際席で眺める景色も10分経てばただの空、ましてや空港の誘導路上で停止してしまったときなんかは寝る以外の選択肢が浮かんできません。1日に数百便もの航空機を扱っていると、空港場面(じょうめん)でトラブルが発生したために1時間以上停止したまんまの旅客缶詰め状態を見かけることもしょっちゅうです。

 

移動時間が早いことは人類共通の願い

乗り物は常に速さを追求してきました。飛行機も例外ではありません。航空管制官にとっても出発機が早く離陸して空港から居なくなってくれることは何よりもありがたいです。ましてやエアラインは営利企業ですので定時制の確保は前提のうえ、あわよくば予定時間よりも早く到着できれば旅客にとって良いサービスになる、と考えています。

簡単に言うと、遅く出たい人なんか誰もいないということです。それを覆したのが、今は昔存在していた夜10時くらいに日本を出発するヨーロッパ行きの定期便です。

幸運なことに、その定期便で何度も母国を行き来する外国の友人と、フライトの運航管理を担当するグループ会社職員の知り合いがいたので、消費者と運航する側の両面から聞いたお話も交えて不可思議な理由の謎を解き明かします。

 

エッフェル塔

社会人になる前の悪あがきでヨーロッパ12泊の旅を敢行したときの写真です。

 

パイロットから不意の呼びかけは悪い予感

航空管制官とパイロットの通信における原則を軽くおさらいしてみましょう。

  1. パイロットは管制官に要求
    (プッシュバック、空港場面の地上走行、滑走路への離着陸等)
  2. 航空管制官はそれに対し指示
  3. パイロットは指示に従って行動
  4. 航空管制官がさらに追加の指示
  5. パイロットは追加指示に従って行動
  6. 航空管制官が次の管制官に通信移管を指示
  7. 1. に戻って次の管制官に要求

この流れに従えばパイロットは最初に要求するとき以外、自発的に航空管制官を呼び出すことはありません。タクシーの運転手さんに行き先を伝えたら、別にこっちからは話しかける必要がないのと同じです。でも明らかに道を間違えたり、急にお腹が痛くなって近くの病院へ行き先を変更したい、なんてことがあれば声をかけますよね。

運転手からすれば後部座席に乗っている人から突然、

「あのー、すみませんけど。」

って言われたらやっぱりドキッとすると思うんです。

管制官に置き換えれば何か指示に間違えがあるか、航空機に何か異常事態が起きたか、はたまたパイロットからの軽い確認か。

いずれにせよ不意の呼びかけで良いことはありません。イレギュラーの扉をノックされているようなものです。開けたくはないけど、ノックに答えるのが仕事ですから無視もできません。

 

アントワープ

 

管制官、こちら〇〇航空〇〇便

英語でこう呼びこまれるのがイレギュラーの合図です。パイロットは管制官に別の要求をする前からコックピットで何を管制官に伝えるか相談して通信をするので、どことなく力がこもった声質で呼びかけてきます。

はいどうぞ、喋ってくださいという意味で”Go ahead”と応答すると、

 

30分後に離陸したいからここで止まっていい?

という要求でした。みんな早く出たいはずの飛行機から初めてそんなことを聞いたときは、耳を疑いました。理由もなくなぜ停止したいのかは全く理解できませんが、事情を聞く必要もありません。

管制業務処理規定にはこのように書かれています。

【管制承認及び管制許可の発出】

(4) 航空機からの要求に基づく管制承認又は管制許可は、交通状況が許す限り発出するものとする。

 

管制承認はまだ説明が難しいので置いていて、管制許可というのは離陸許可、着陸許可を代表として一部の指示も含める許可的な意味合いのものを指します。

ここに理由を聞いて判断する、の文言はありませんので、何も聞かずにパイロットの言う通り30分間、誘導路上で停止することを許可しました。

 

これと同じようなやり取りが毎週のように続くので、

ある日、パイロットに直接無線で理由を聞いてみようと考えました。

管制官も含めて航空関係者なら答えは明白かもしれませんが、推察ではなくパイロット自身の口から聞きたい衝動に駆られたので、

「何でいつも遅く出発したいの?」

と、思い切って通常の英会話感覚で尋ねてみました。

 

パイロットの返答、知り合い二人から聞いたキャビンと運航者側の事情、については次回へ続きます。

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