管制塔

航空管制官になって一番嬉しかった日の出来事

航空管制官は自分が良い仕事をしても、直接相手からその感謝を受けることはありません。

パイロットとの通信は一期一会ですし安全であることが当たり前の仕事なので、脳の回転が早くて処理能力が高い管制官だからといって、安全を損なう出来事を一つでもしてしまえばその過去の評価は一瞬で崩れ去るほどの打撃を自分自信で感じざるを得ない、そんな仕事です。

 

そんな航空管制官ですが、仕事をしていて良かったと思える瞬間を聞かれれば皆口々に出る言葉は、

「パイロットに無線でサンキューと言って貰えた。」

これに尽きるでしょう。

 

自分が緊張で何も喋れなかった訓練生時代を乗り越えて、たくさん辛い思いを経験しながら周りに手助けしてもらって一歩ずつ成長し、一人前になるテストに受かってそれでもパイロットに感謝されるような仕事ができるまでには長い道のりが待っています。

飛行機の操縦に関しては管制官より熟知しているパイロットが、自分がした指示に対してサンキューと心からそう思っている感じがする声を聞けたときというのは、自分はこの仕事に向いているのかとかこんな大役を請け負ってていいのか、といった不安の渦から解放されたような気持ちになります。

 

航空管制官は華やかそうに見えて職人なんです。

職人とは自分がこれが一番良いと思うことをただ信じてやり続けるだけで、その評価を直接相手から受け取ることができない孤独な職業といえます。その代わり文句やクレームを面と向かって言われることもありません。

 

偶然がもたらしたパイロットからの直接の声

いつだったか記憶は定かではありませんが、この日の出来事は航空管制官を辞めた今でも忘れることはありません。それは、自分が午前中のシフトを終えて休憩後に管制塔へ午後の勤務のために戻ったときの出来事です。

 

ヘリコプター

 

管制室に入るなり一人の上司から声を掛けられました。

「午前中のこの時間帯に滑走路担当だった管制官が誰か探してたんだけど。」

と、言われてよくよく考えてみるとその時間帯は自分だったことを思い出しました。

こういうことを言われるとすぐに、

自分が何かミスをしてしまったのでは・・・

と、考えてしまうのはこの職業の常です。最初にお伝えした通りそういう話は直接聞くことはありませんが、事務室経由で航空会社から調査の要請が入るようなことも少なくありません。そもそも褒めてもらうようなシーンなど一つも思い当たることはなく、今回も身構えながらなぜ探しているのか気になりながら、

「僕がやりました。」

と、半ば自白をするようにその上司に自分であったことを告げました。

すると想像もしない答えが返ってきて、冷静を装っていましたが内心は喜びでいっぱいでした。

 

管制塔

 

「担当してるとき、滅多にこの空港に来ないヘリコプターがいなかったか。」

そう言われて尚更そのパイロットに何か不味い指示をしたかな、と考えます。すると続けて、

「実はそのパイロットは研修の一環でこの空港に来てたみたいで、フライト後にさっきまで管制塔の見学に来てたんだよ。」

と聞き、管制室に来たときに何も知らない午後勤務者たちに、さっきこの空港に降りるときに担当していた管制官にすごく助けられた、という話をされてたみたいで、初めて来る空港だったからヘリコプターがどこに降りれば良いのか地図で予習はしていたけど、いざ着陸する瞬間になって到着ヘリパッドがどこなのか迷ってしまって、でも着陸許可はすでに出されていたから今更どこに降りればいいかなんて聞けなかった、という話をされていたそうです。

 

その話を聞いてすぐにそのシーンを思い出しました。

最初に通信で会話したときから声が少し緊張気味かな、と感じていたのですが、管制塔から見ていてもそのヘリコプターが降下するタイミング、速度、進行方向が何となくいつもと違うと思ったので、着陸許可はすでにかけていたのですが様子を見守っていました。

 

するとやはり何か動きに違和感を感じたので、

「今、そのすぐ左下に見えているのが降りるヘリパッドです。」

と、日本語で助言を与えたそのパイロット本人が管制塔に見学に来たということがようやく分かりました。

 

さらに、そのパイロットはこうおっしゃっていたそうです。

「この空港にはパイロットの気持ちがわかる良い管制官がいますね〜。」

そんなこと言うもんだから見学者がいなくなった後、一体誰がその担当をしていたのか管制塔内で話題になって探していたそうです。そんな出来事は何も知らずに昼食を食べていたので、せっかく面と向かってそのような言葉をかけてもらう機会は逃しました。

でも、管制官はそれで良いのです。

直接言ってもらえなくても、パイロットを始め航空管制官の通信を常にモニターしている航空会社や共に協力する他の組織も含めて、見えないところで感謝してくれているということを忘れてはいけない、と強く感じた出来事でした。

マニュアルや規則にはないとっさの判断でかけた日本語の助言が良かったかどうかは、この話を聞くまでは自分でも分かりませんでした。もしかしたらパイロットは分かっててそう飛行していただけなのに、余計な一言を言ってしまったのでは、という気持ちも正直ありました。

ですが、この日のおかげで薄々気がついてた一つのことが確信に変わりました。

 

自分が良いと思うことを信じて精一杯やれば良い。

それを教えてくれたパイロットに今更ながら伝えたいです。

サンキュー、と。

 

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2 コメント

  • 返答
    AKI18
    2017年1月5日 at 8:16 AM

    素晴らしいブログをありがとうございます。今年管制官試験を受験する者です。実地に経験された方の記事を読ませていただくととても勉強になり、感謝しています。いまはひたすら勉強に打ち込む時期と認識していますが、時々来て励みにさせていただきます。

  • 返答
    てっちりん
    2017年1月6日 at 11:20 PM

    AKI18さん
    ご覧いただきありがとうございます。気ままに運営しているブログですが、今後もどうそ宜しくお願いします。

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