管制塔

緊急機と時間厳守のVIPが一緒にやってきた日

航空機は世界一安全な交通手段と言われています。地面から離れて遥か上空を飛行し、落ちたらどうしようもない状況に恐怖を感じるかもしれませんが、飛行機の構造や空の安全システムというのは知れば知るほど、最先端技術と過去の教訓から積み重ねた人々の工夫が詰まっていることが分かります。毎日、数百便の飛行機を取り扱っていると、目の前で安定して簡単そうに離着陸する様子ばかり見すぎて、操縦を失敗したり墜落したりすることなど起こり得ないのでは、と錯覚しそうになります。天気が良い日なんて特にこのような油断は禁物です。

緊急宣言をする航空機のパイロットからも事故寸前のような切迫感を感じることはあまりありません。パイロットは不具合が発生すれば、淡々と航空会社と航空機のマニュアルに従ってトラブル回復のための対応をとり、そのプロセスのひとつとして管制官に要求を出します。緊急対応といっても多くはそういう程度のものです。

 

政府要人や皇族が搭乗する定時制確保のVIP

B747-400, Japanese Air Force One

写真の政府専用機”ジャパニーズエアフォースワン”は全く関係ありませんが、その日は勤務前のブリーフィングで定時制確保の航空機がいることが知らされました。これは航空管制上、定時制確保のVIPというもので、政府専用機だけでなく国内外の首相、大統領、大臣クラスの公人や皇族、王族の方々をはじめとする国家レベルで移動中の護衛が必要な人(まさにVery Important Person)が搭乗する旅客機も、定時制確保の取り扱い対象となります。

 

到着予定時間通りに、大きな遅延がないように

管制官に求められるのはそれだけです。航空機の定時制を確保するというのは特に意識しなくても通常は達成できることですが、万が一VIPが来るタイミングが悪くて遅延を生じさせる結果となれば、その後の空港警備、一般道路や高速道路上での追尾体制等々、VIPを安全に目的地へと護衛するために敷かれた体制を崩しかねません。なので、優先的な扱いというわけではないけど時間は守ってね、というのが定時性確保です。

その日は昼過ぎの到着ピーク時間帯に入る前くらいに、皇族の方がご搭乗中の旅客便が到着する飛行機があり、到着予定通りに空港ターミナルまで誘導しなければなりませんでした。

 

S__39682070アメリカ合衆国大統領専用機”エアフォース1”実は無線上で”エアフォースツー”とも呼ばれるときも。

 

太平洋上で緊急機発生、目的空港はここ

管制塔で業務に就いてまもなく、航空交通管制部という広範囲レーダーを用いて航空路管制業務をする管制施設から、あと3時間くらいで到着する予定だった飛行機が緊急宣言をした、との話が入ってきました。緊急機に関する最初の一報は当該機のコールサインと場所だけで、詳しいトラブルの内容はパイロットに無線で聞いて調査中、とのことでした。

当時はまだ経験が浅くて緊急機の適切な対処に自信がなかったので、出来れば自分がパイロットと交信しないときに緊急機が到着してほしい、と思いながらも緊急機が他の飛行機にどういう影響をもたらすのか見てみたい。目先のことばっかり考える新人管制官とは違い、周囲の先輩方は冷静です。

 

「緊急機が予定早まって、VIPと重なったらどうしようか。」

 

通常通りの流れならVIPと、まだ太平洋上にいる緊急機が着陸する滑走路まで競争しても、VIPが1時間くらい早く着く予定だったので、緊急機のことは気にせずにVIPが到着した後に予定通り緊急機を着陸させて、着陸後に滑走路点検をするならそのアナウンスだけ全体にしておこうかな、と考えていました。

緊急機が発生した時点では、いくら何でもそんな風にはならないか、と管制塔の雰囲気も和やかです。

すると次に、甘ったれた予測をする管制官の目を覚ます第二報ビンタが、航空交通管制部から届きました。

 

緊急理由はエンジントラブル

エンジントラブルといえば、有無を言わさず優先的に目的空港までレーダー誘導しなければならない理由の代名詞です。エンジントラブルって言われちゃ、着陸後の滑走路点検、消防車の追従は確定、緊急機着陸後は滑走路を最低でも15分くらい閉鎖する事態になります。

航空交通管制部から空港周辺の空域を管轄するターミナルレーダーまで、緊急機を最優先にレーダー誘導しているうちに、1時間以上開いていたVIP機との到着時間差が30分程度に縮まりました。

緊急機はさらに飛行速度を上げて空港に向かって直進中。さっきの誰かのボヤキが現実味を帯びてきます。

 

「緊急機が予定早まって、VIPと重なったらどうしようか。」

 

結末はどうなったのか。

次回へ続きます。

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