管制塔

見えなくても滑走路上の安全を守る方法

低視程管制

地上から高層ビルを見上げてもどんよりと濃い雲がかっていて、上の方が一部隠れて見えないような天気の日ってありますよね。歩行者や車くらいの目線なら先まで見渡せますが、雲に隠れたビルの中から視界はどうなっているか想像したことはあまりないと思います。

そういう天気の日に勇気を出して東京スカイツリーの展望台とか行ってみればスグに実感できると思いますが、トップ画像のように雲が低くて管制塔の上部が隠れてしまうと、最上階にある飛行場管制室の中からは外が全く見えません。だからと言って航空機の離着陸を止めていたら、飛行機の運航スケジュールを根底から覆すほど多大な影響が出ます。

 

そこで今日は、管制塔から飛行機も滑走路も見えないとき、何を根拠に管制官は安全と判断して離着陸の許可を出しているのか、についてご説明します。

 

低視程管制写真

 

管制業務処理規定、という日本の航空管制官が遵守する言わば管制官のバイブルがあります。本のカバーが黒いことから通称”黒本”と呼ばれるこのマニュアルは、日本航空機操縦士協会の過去ログを参照して新旧対照表を手に入れるか、一部書店で売られているAIM-Jにも同様の記載があります。

以下は、管制業務処理規定から一部抜粋

(1) 離着陸する航空機相互間の滑走路における間隔は以下に掲げる基準によるものとし、目視により設定するものとする。ただし、飛行場管制所から視認できないIFR機の位置が次の方法により取得できる場合は、その位置に基づき当該間隔を設定することができる。

(a) 当該機からの通報
(b) 関係管制機関からの通報
(c) 10(2)又は12(2)による位置の確認
※これは要約すると、規定に定められた管制機器として認められたレーダーなどを見て確認するということ。

管制官が勉強する文章というのはこういう法律チックな書き方のものがほとんどです。航空法に比べればまだマシですが、航空保安大学校に入学して初めて黒本を開いたら、こんなもん覚えられるか!と、誰もが唖然とするほどの難解さとボリュームです。

 

航空機を視認できなきゃ管制官はパイロットに聞け

簡単に言うとそう書いてあります。(a)と(c)を並列と見なせば、パイロットに聞いてその飛行機が滑走路から5マイルの位置にいると通報を受けること(a)、と管制機器を使って画面などで航空機が5マイルの位置にいることを確認すること(c)、は同じだということです。

パイロットからの通報を受ければそれを根拠にして、滑走路が安全だと判断できるというのは新鮮です。レーダー機器は誰が何と言おうと客観的に対象物の位置を示すものですが、通報というのはあくまでそのパイロットが送信する声だけです。それだけを聞いて滑走路の安全を判断するなんて、実に抽象的で古めかしいやり方に思えます。

ですが、このやり方を上回る方式が確立できていないので、未だ変わることなくスタンダードとなっています。

 

低い雲

 

滑走路が見えないときの着陸許可交信例

管制官; …report runway vacated.
「…滑走路から離脱をしたら通報してください。」

到着機; …roger, report runway vacated.(復唱)

次の到着機; …we’re approaching 5-mile-final, request landing instruction.
「現在滑走路から5マイルに近づいています。着陸許可をリクエストします。」

管制官; …continue approach, you are no.2.
「(先にいる到着機がまだ滑走路にいるので、着陸許可は出せませんが)滑走路への進入を続けてください。あなたは2番目です。」

次の到着機; …roger, continue approach.(復唱)

 

この通信をした後は先ほど通報をするように指示したパイロットから滑走路離脱の報告があるまで、目を閉じて耳だけに集中してたって問題ありません。管制塔が雲の中じゃ外を見ても何も得られる情報はありませんので。

先行到着機からの報告を待つ、これって結構もどかしいんです。飛行機が滑走路から離脱してないので仕方ないことなのですが、通報が遅くなればなるほどナンバー2の到着機は滑走路にどんどん近づいてきます。

滑走路が見えていれば飛行機が滑走路から抜けて安全であることを目で確認できるのに、天気が悪いとパイロットに聞くという通信が必須になるので管制官の負荷は高まる一方です。

そうこうしているうちにさっき到着したパイロットから通報がきます。

 

到着機; Tower, we’re vacating runway.
「タワー、いま滑走路から離脱です。」

管制官; …roger.
「了解!」

管制官; …(次の到着機へ)cleared to land, wind ○○○ at ××.
「(先行到着機から通報あったので)滑走路への着陸を許可します。」

次の到着機; …cleared to land, roger.(復唱)

 

と、こんな展開です。

人に何かをお願いして、それがなかなか実行されないときって不安で確認したくなるじゃないですか。

本当にやってくれてるの?って気が気じゃない心境になっているなら、それは外が見えない日の管制官の心境と同じです。状況を知りたいから聞きたい!でも聞いてもしょうがないから待つしかない。そうやって不安にかられるくらいなら、どうなっても対処できるように準備しておく。

それは低視程下だけに限らず、管制官として基本の心構えかもしれません。

 

このように、管制業務は目隠しされても口と耳があれば何とかなるように出来ています。

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