航空管制官

緊急飛行機の安全対応講座

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今日は航空保安大学校で授業をしているつもりで、緊急状態を宣言した飛行機が現われた場合にどう対処したら良いかを教えます。

講師は元管制官です。もう国土交通省には属していないので、言葉に責任を持たず自由な意見をズバズバ言える立場の人間。8年間の経験で少なくとも30回は緊急状態の航空機に遭遇し、常に安全に対処をしてきました。常に安全とはいっても、パイロットからこのまま進行すると隣の飛行機に当たっちゃいそうですよ、とツッコミを受けたことくらいはあります。

いついかなるときも、突然発生するから緊急状態です。緊急機は安全に着陸させて他の航空機に無駄な影響や遅延を発生させない、それができれば一番なのですが、慣れないうちは経験の無さからくる焦りが邪魔をして簡単にはいきません。

 

飛行機の緊急度合いを知る

緊急と呼ばれる状態を引き起こす要因には様々な種類があります。エンジンの異常、油圧システムトラブル、コックピット内の計器故障、機体の異常だけではなく2人いるパイロットのうちの1人が気絶する、なんてのも緊急状態に含まれます。

ニューヨークで起きたハドソン川の奇跡と呼ばれる、USエアウェイズ1549便が離陸直後にバードストライクに遭ってエンジン2発ともアウトになった、という出来事がありましたが、あれは緊急度合いMAXです。

緊急度が本当に高い飛行機というのは、今にも落っこちそうで余計なことを考える時間がありません。現在地から直行してなるべく近い空港に着陸するか、人が住んでいないような広い平野でも探して大自然を削りながら着陸するか、さもなくばサレンバーガー機長みたいに川や海に着水するか、とにもかくにも着陸しなきゃマズイ!となるのが緊急度合いMAXの状態です。

 

Plane_crash_into_Hudson_River_(crop) By Greg L

 

これぐらいシビアな不具合だと逆に気がラクです。パイロットの意向を聞いて、有無を言わさず他の飛行機は待機させます。効率なんて考えていられませんので、緊急機のことだけ考えてあげましょう。

このような大事件は稀なので、実際に遭遇すれば100%の対応ができる人間はいません。僕がメインでお話ししたいことは、世間が知るほどのものではなく、現場でよくある緊急状態です。

 

緊急機の結末パターンを考えよう

飛行機の機体に何かしら不具合が起こるから緊急に陥るわけです。つまり、無事に着陸できた暁には機体のその不具合を整備して、再び目的地に向かって再出発をしたい。だから通常、パイロットは緊急状態とはいえ、事前に飛行計画書に記載した代替目的空港か出発した空港に戻ろうとします。

 

さて、ここからが現場で使える緊急機マニュアルの部分なのですが、緊急機が最後安全に到着できるかどうかを見届けるのは飛行場の管制官なので、タワー管制官からの視点で話すことにします。

 

タワーの管制官として滑走路上の離着陸の安全を守るあなた。ひっきりなしに呼び込んでくるパイロットの対応に精一杯対応する最中、一枚のメモが他の管制席から渡されました。

受け取ったあなたは、通信で喋りながら目線だけメモに向けて内容を把握します。

(緊急宣言をした到着機が発生。便名〇〇、トラブルの内容はまだ不明。)

 

Airbus A380

 

きた…緊急機、こうしたらこう、そうしたらそう、でももしかすると…。

そんなこと考えてたら取り乱す寸前です。平常心を保つためにタワーの管制官として、このとき考えなきゃいけないのが、典型的な緊急機パターンについて。

緊急到着機は、以下のように結末を分類できます。

  • 緊急って言ってるけど、コックピット内の表示器に問題があっただけで、着陸してみれば機体に異常は何事もないパターン
  • 着陸してみたらコックピット内の表示器通りに飛行機が故障しているパターン
  • 着陸後に滑走路内で停止して動けなくなることが確定しているパターン
  • 飛行機を減速させる翼面の部品(フラップ、エルロン、スポイラー)が効かなくて、滑走路にハイスピードで接地するパターン
  • その他、トラブルの内容より異なる個別のパターン

緊急機の発生というとずいぶん大事のように聞こえますが、緊急慣れすらしてしまった僕には何てことありません。パターンを理解して淡々と業務をこなすだけです。その領域に達すれば平常心を保てるのですが、どうも不慣れな新人くん達は何か準備できることはないか、と状況をちゃんと把握する前から大慌て。

緊急機が発生したって、ハドソン川レベルの緊急度じゃないなら、大抵は上記のようなパターンに収まります。まずはどうせこのパターンだろう、と楽観的に考えて冷静を保ちながら次のステップに移ります。

 

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誰にも聞かず、もう片方の耳で密かに情報収集

こっからが管制官としての腕の見せ所。この技術が身に付けばググッと管制官らしくなります。誰かに言われたわけでもないのに先に行動し、誰にも聞いてないけど実は状況を全て把握している。そうなるためには気持ちを落ち着かせて冷静でいることが何よりも重要ですが、そもそも緊急機をどうやって扱えばいいのかを知らなければ冷静になることなどできません。

無線を担当する管制官の片耳は常にイヤフォンで塞がれています。パイロットからの無線やオーバーライドで調整してくる管制官の声は全てその耳に入ってきますが、緊急機が発生したときに重要なのは塞がれていないもう一方の耳です。その耳に入ってくるのは当然パイロットの声ではなく、緊急機発生によりざわついている現場で交わされる会話です。

現場でのやりとりは全て貴重な情報収集源です。可能な限りイヤフォンと逆側の耳に意識を傾けて緊急機の情報を集め、覚えられなければメモできるだけメモしておきましょう。

大丈夫、あくまで盗み聞きするだけの話です。その行動に誰も気づいていません。聞き取れなかった点やメモが不完全な部分があれば、欠けた情報だけを何も知らないかのように統括者に聞けばいいんです。そうやって誰かに尋ねることなく、誰にも気づかれないように情報収集をする。これは緊急状態のときだけに限らず、管制官としてとても重要な技術です。

知らないふりのポーカーフェイスと盗み聞きのプロになりましょう。相手に尋ねるというのは次の手としてとっておき、パイロットとの交信をしながら片耳だけで全て把握してやるつもりで聞くんです。

 

今日はここまでにします。

続きはまた明日。

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