管制塔

緊急機かVIPかレーダー管制官の一振りで決まる

前回のおさらい。定時制確保のVIP機が昼過ぎに着陸する予定があったが、太平洋上で緊急宣言をした到着機が現れ、航空交通管制部により最優先でレーダー誘導しているうちに、VIP機の到着予定時刻に緊急機が近づいてくる。緊急理由はエンジントラブルということなので、着陸時に部品落下、オイル漏れ等の可能性を考えて、緊急機の着陸後は車両による滑走路点検を実施しなければならない。

 

レーダー管制官、コンタクト最初の一振り

 

 

ターミナルレーダーの航空管制官は空港周辺の離着陸する飛行機が入り乱れる空域を担当しており、出発機であれば空港から約50〜100kmほど離れた航空交通管制部の空域まで、到着機であれば先ほどとは逆に航空交通管制部とレーダーの管轄境界から滑走路への進入を開始するまで、それぞれレーダー誘導することを主な管制業務としています。小規模な空港ではレーダーを介することなく、航空交通管制部と管制塔の間で直接やり取りをします。

空港の管制塔で業務する管制官は、レーダー誘導により滑走路への進入を開始する飛行機の情報を前もって知るために、ターミナルレーダーで使用しているレーダー画面の再現モニターを管制席で見ています。やがて経験を積むうちに見慣れてきて、レーダーが指示した飛行機の航跡を見るだけで、ある程度はレーダーの意図を読み取ることができるようになってきます。そうすると次第に、

 

レーダーが到着機にどんな磁針路を指示するかとても気になってきます。

 

特に重要なのが最初の一振り。一振りと言っても振るのはバットでも竹刀でもなく、飛行機の頭です。飛行機の頭を振る=飛行機の磁針路(ヘディング; Heading)を指示する、またしても管制官の飛行機モノ扱い表現の登場です。それはともかくとして、レーダーが自分の空域に入る航空機に最初に指示するヘディング、すなわち最初の一振りがどこを向いてるかを見れば、その航空機が最短で滑走路に向かってくるのか、遠回りして他の到着機の後ろに回るのか判断できるというわけです。

 

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エンジントラブルの緊急機が先か、それとも皇族の方がご登場中の定時制確保の旅客機が先か、判断はレーダー管制官(航空無線での呼び名はアプローチ)に委ねられました。

一般的な感覚で言うと偉い人が乗っていようが緊急な方を優先する、というのが道理が良さそうです。そっちを選択したら、緊急機着陸後の滑走路点検が終わるまでVIPは空中待機を余儀なくされるので、定時制は確実に守れなくなります。

かといって緊急機を後ろにさせたら、緊急機の前に到着するVIP機が滑走路上で何か不具合が起きた際にはエンジントラブルの飛行機をゴーアラウンドさせなければならないという、危険度がとても高まるシチュエーションになることを、航空管制官であれば誰でも容易に想定してしまいます。

 

正常に飛んでる飛行機が着陸も正常である保証はありませんので。

 

いよいよ管制塔のレーダー画面にもVIPと緊急機が映ってきました。

距離にして約15kmくらいでしたが、VIPの方が先にアプローチの空域に到達しました。後ろから追い上げる緊急機の飛行速度は、時速で80kmくらいVIPに比べて速いため、同様のヘディングを指示したら追いついてしまうのは確実です。

 

正しい答えがない2つの選択に対しアプローチが下した判断は、VIPを先に滑走路へ向けて最短でレーダー誘導し、緊急機は少しだけ遠回りさせて後ろに着陸させる、というものでした。

 

この話を聞いてその判断をどう思われるか分かりませんが、結果的にはレーダーの意図通りに事がうまく運び、VIPの定時制を守ったうえで緊急機も何事もなく、無事に空港のターミナルビルまで帰ることができました。

 

今回の件は意図した通りに針の穴をうまく通すことができましたが、ほんの少し状況が変われば糸はほつれて2度と通らなくなります。

困難を乗り切ったその方はダジャレ好きの明るい人だったので、緊急機対応講座の締めにあやかりました。長い長いシリーズ記事となってしまいましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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